【2403冊目】中上健次『枯木灘』
秋幸は熊野の路地で「蠅の王」龍造とフサの子として生まれ、フサと夫の繁蔵に育てられた。複雑な血の絡み合いは、近親相姦や兄弟同士の殺し合いを生む。
情景描写はえぐるように叩きつけられ、会話は切り裂くようにうなりをあげる。他のどんな小説にも似ていない、圧倒的な迫力と緊張感の中上ワールド。
あえて似ているものをあげれば、ガルシア・マルケス『百年の孤独』だろうか。だが、南米と違う熊野の路地のリアリズムは、やはり土着の小説ゆえの迫力だろう。暴力的で、エロティックで、下品で、むき出しな、だがこれこそが「生きている」ことなのだと肌身で感じることのできる、稀有の小説。