自治体職員の読書ノート

自治体で働くソーシャルワーカーが、読んだ本を紹介します。

【2402冊目】山田真一『エル・システマ』

 

エル・システマ―音楽で貧困を救う南米ベネズエラの社会政策

エル・システマ―音楽で貧困を救う南米ベネズエラの社会政策

 

 

ベネズエラに、とんでもない音楽教室がある。参加は無料。楽器も貸与。子どもたちに音楽の基礎知識から楽器の演奏技術までを教え、オーケストラで演奏する。その中には「百年に一人の天才指揮者」といわれるグスターボ・ドゥダメル率いるシモン・ボリバル・ユース・オーケストラも含まれている。そもそもドゥダメル自身、この音楽教育システムの中で才能を見い出された一人なのだ。

エル・システマとは英語になおせば「ザ・システム」。つまりこれは、それ自体がひとつのシステムなのだ。単に効率的な音楽教育を行う、というだけではない。貧しいベネズエラの子どもたちに、学校が終わった後の居場所を与え(だから街角にたむろして非行や犯罪に走る子どもが減る)、楽器を無料で貸して弾き方を教え(子どもたちにやりがいと自信をもたらす)、オーケストラでのアンサンブルを教える(規律と協調性を身につける)。そしてある程度の才能があり、努力を惜しまなければ、セミプロやプロのオーケストラの団員として職を得ることまでできるのだ。

この仕組みはものすごい。中身は全然違うが、インパクトはムハマド・ユヌスバングラデシュで展開したマイクロクレジットに匹敵する。本書はそのありようを、ベネズエラの複雑で困難な歴史と現在を背景に、見事に描き出した一冊だ。そして、そこから生み出される音楽の質の高さときたら! 南米の青少年オーケストラがどんな演奏をするか知りたければ、とりあえず次の動画を見てください。驚くことウケアイである。

 


シモンボリバル・ユース・オーケストラ ノリノリのアンコール!

 

 

 

 


Simón Bolívar Youth Orchestra / Gustavo Dudamel - Tchaikovsky Symphony no. 4 - 4th movement

 

もうひとつびっくりしたのは、この音楽活動のベースを作っているのが、鈴木慎一の開発したスズキ・メソードであるということ。非西洋国家である日本で西洋音楽を根付かせようとして生み出されたスズキ・メソードが、同じ非西洋国家のベネズエラで子どもたちに音楽の基礎を伝えるツールになっている。なんだかちょっとうれしくなってしまうエピソードではないだろうか。