【2378冊目】森鷗外『阿部一族・舞姫』
インスタグラムからの転載。
森鷗外という作家の幅の広さを感じさせる一冊。文語調で格調高いロマンスがあっと愕く悲劇に至る「舞姫」からシリアスな時代もの「阿部一族」、どこか漱石を思わせるユーモラスな「鶏」に圧倒的な突き抜け方で異彩を放つ「寒山拾得」と、鷗外が案外全方位型の作家であったことが再認識できる。
中で傑作を挙げるならやはり「阿部一族」であろう。殉死を許されず、一方で「死なないでいること」を責められるダブルバインド。そこから抜け出すには、城にたてこもって一族ともに自害するという方法しか残されていない。生きるか死ぬか、ではない。あるべき道を貫けない、その辛さをここまで突き詰めた作家が他にいただろうか。