【2361冊目】唐木順三『千利休』
インスタグラムからの転載。
誰もが名前は知っているが、ではいったい何者だったのかと考えると、案外掴みづらいのが千利休という人物だ。本書はその正体を、能楽や禅というルーツ、堺という商人都市の出自、信長や秀吉との関係、その背後にある時代の様相などを重ね合わせるようにして、立体的に浮かび上がらせた一冊だ。
利休の生きた時代は、思えば日本が急激に変化した時代であった。信長は、近世を飛び越えて近代的ともいえる進歩的精神をもち、秀吉は、日本史上異例ともいえる豪壮華美を好んだ。その秀吉が、対極ともいえる2畳半の「わび」の世界に生きた利休を、なぜ切腹させたのか。
「わびは対比において始めてその存在理由をもつ」と著者はいう。秀吉の派手があってこそ、利休のわびも存在した。それゆえ、利休のわびは秀吉を超え得ないという宿命をもっていた。利休はあるいは、秀吉の影のようなものであったのかもしれない。実際、秀吉が華美を極め、豪壮を極めれば極めるほど、利休の茶室はどんどん小さくなり、その内容は無限に近いほど凝縮されていったのである。