自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【1714冊目】『世界の夢の図書館』

世界の夢の図書館

世界の夢の図書館

図書館本7冊目。「怖い図書館」の次は「美しい図書館」へ。

ヨーロッパからアメリカ、アジアまで、世界中の37の「美しすぎる図書館」を紹介する一冊。

大判で全ページフルカラー。掲載されている写真も素晴らしいものばかりで、もう眺めていてため息しか出ない。何も言われなければ、到底図書館とは思えない建築美の連続。中世の修道院の重厚さから、最新デザイナーによるアバンギャルドなデザインまで、バリエーションも多様である。

公共図書館もたくさん載っているが、こういう本に出るだけあって、そのデザイン性は「公共」の枠を大きく超えている。日本なら「ハコモノ」として叩かれそうな豪勢でエレガントなものばかりだが、しかし行政の立場を離れて一人の図書館ユーザーとして言うなら、図書館にふんだんにお金をかけられるこうした文化的環境は、うらやましいの一言。

ちなみに日本の図書館は、本書にはひとつも出てこない。大規模なところはともかく、市町村レベルで、けっこう良いデザインの図書館はあるんだけどなあ……と思いつつ、やはりそのスケール感では太刀打ちできないものを感じるのも事実。まあ、大きいことが良い事だとは思わないが、こういう巨大公共図書館こそ、本当は作る側の「見識」と「思想」が問われるのだ。

また、読んでいて感じられるのが「図書館」というものの多様さ、多彩さだ。ページをめくるごとに、「公共図書館はこうあるべき」という固定観念がどんどん突き崩される。広大な閲覧室、寝ころんで本が読めるカウチ、お洒落なカフェ、ガラス張りの書庫、豪華な天井画に重厚な装飾……。びっくりしたのはメキシコのバスコンセロス図書館で、ここではなんと書棚が天井から「宙吊り」になっている。未来世界のようなメカニカルな光景は一見の価値あり。

また、松家仁之氏の『火山のふもとで』を読んだ方なら、ストックホルム市立図書館と設計者のエーリック・グンナール・アスプルンドの名前を見て「おおっ」と思うだろう。広々とした閲覧室を本がぐるりと取り囲む、重厚だが開放的な絶妙のデザインこそ、あの小説で「先生」たちが目指した理想の公共図書館だった。

本書はとにかく、四の五の言わずに開いてみるべき一冊だ。そして、そこにある図書館のあまりの美しさに茫然としたら、なぜこういう図書館が可能なのか、じっくり考えてみるとよい。

特に新しくできた公共図書館のデザインの裏側にある「思想」をしっかりと読み取るべきだ。電子書籍全盛のこの時代にあって、図書館とは何なのか、どうあるべきなのかというギリギリの「問い」が、そのデザインには凝縮されている。決して安易な「ハコモノ」ではないからこそ、これらの図書館は絶句するほど美しく、魅力的なのである。

火山のふもとで