【1747冊目】ダフネ・デュ・モーリア『鳥 デュ・モーリア傑作集』
- 作者: ダフネデュ・モーリア,Daphne du Maurier,務台夏子
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2000/11
- メディア: 文庫
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ヒッチコックの映画で有名な「鳥」をはじめ「恋人」「写真家」「モンテ・ヴェリタ」「林檎の木」「番」「裂けた時間」「動機」の8作品を収めた短編集。長編『レベッカ』のようなサスペンスからゴシック・ロマン、SF的着想のものまで、内容は実に多彩。デュ・モーリアの才能をたっぷり堪能できる一冊だ。
冒頭の「恋人」でまずびっくり。これを冒頭に置いたのは大成功だ。ほろ苦いロマンスの結末と思わせて実は……というひっくり返し方が絶妙。よく読めばあからさまなくらいに伏線が張ってあるのに、どうして最初に読んだ時は気付かないんでしょうねえ。
次の「鳥」は本書の目玉商品。ヒッチコック映画の原作とされるが、共通しているのは鳥が人間を襲うという着想のみ。でもこの着想が、やはりずば抜けている。徐々にサスペンスを盛り上げる書きっぷりもさすがのストーリー・テラーぶりで、映画とは違う興奮と恐怖がある。パニック・サスペンスの名作。
「写真家」は旅先の情事が迎えた結末という、まあありがちなネタの一篇だ。シチュエーションはどこか『レベッカ』を思わせるが、皮肉っぽいラストが効いている。
「モンテ・ヴェリタ」は、ここまでサスペンス風味の作品が続いてきたところでいきなりの、幻想的なゴシック・ロマンの一篇。山のてっぺんにある謎めいた僧院をめぐる神秘的なストーリーだが、同時に悲恋モノの傑作でもある。解説では「神品」と書かれているが、まさにそのとおり。本書の中でもっとも異色だが、同時に随一の作品だ。
「林檎の木」はなんとも不気味でじわじわと「来る」作品。主人公の亡き妻ミッジはなんともうざったくイヤな女性だが、庭に生える林檎の木がそこに重なり合い、まるで林檎の木がミッジ自身であるかのような描写が効いている。ブラックユーモアのたっぷり混じったホラー・サスペンスというべきか。
「番(つがい)」は叙述トリックだ。翻訳のためかややアンフェアな印象もあるが、この発想は意外。必ずもう一度読み返したくなること請け合いである。
「裂けた時間」はちょっとSFじみた仕掛けの一篇。何がどうなったのか、ほとんどの読者がうすうす気づくと思うが、それでも最後まで読まされるのがデュ・モーリアの語り口の巧さなのだ。こういうのも書けるのか、と驚かされた。
「動機」は今で言えばイヤミスだ。後味の悪さは天下一品だが、やっぱりこれも展開の仕方がうまくてラストまで釘付けになる。私立探偵ブラックの「探偵テクニック」にも感心させられた。