自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【1530冊目】ジョー・ヒル『20世紀の幽霊たち』

20世紀の幽霊たち (小学館文庫)

20世紀の幽霊たち (小学館文庫)

ホラー短編集。朝日新聞の書評欄瀬名秀明が絶賛していたので読んでみたのだが、う〜ん、これは期待以上。これがデビュー作って、マジですか。

収められている短篇は実に幅が広く、しかも完成度が高い。映画館の幽霊譚という雰囲気たっぷりの正統派ホラー(「二十世紀の幽霊」)もあれば恐ろしい父親の狂気を描くサイコな一篇(「アブラハムの息子たち」)もあり、カフカの「変身」のオマージュに始まり昆虫化した少年が人間を殺しまくる衝撃の結末に至る「蝗の歌をきくがよい」もあれば、ジョージ・ロメロの映画「ゾンビ」の撮影現場を舞台に、ゾンビに扮した男女の人間ドラマを絶妙に描く「ボビー・コンロイ、死者の国より帰る」もある。

「人間の末期の吐息を集めた博物館」が出てくる「末期の吐息」は小川洋子を、少年と風船人形の友情を描いたせつない一篇(「ポップ・アート」)は父スティーヴン・キングを思わせる。「黒電話」はジャック・フィニイから明らかに借用したフィニイという名前の少年が主人公。他にもポオやブラッドベリ、クーンツやマキャモンら、歴代のゴシック・ホラー、モダン・ホラー幻想小説の書き手たちが、確かに本書の中で息をしているのを感じる。いったいこの1972年生まれの著者は、どのようにしてこれだけの並みいる作家を自家薬籠中のものとしたのか。

個人的な趣味を言えば、少年の日の記憶とホラー・テイストをブレンドした「自発的入院」、風船人形との交流という「せつない奇想」を見事に小説化した「ポップ・アート」がイチオシ。いずれにせよ、21世紀のホラー小説は、おそらくこのジョー・ヒルを抜かしては語れないだろう。それほどの素晴らしい一冊だ。長編も出ているようなので、ぜひ読んでみたい。