【1325冊目】レオン・レーダーマン&クリストファー・ヒル『対称性』
- 作者: レオン・M.レーダーマン,クリストファー・T.ヒル,Leon M. Lederman,Christopher T. Hill,小林茂樹
- 出版社/メーカー: 白揚社
- 発売日: 2008/04
- メディア: 単行本
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「対称性」というキーワードひとつで、広大な物理学の世界をバッサリと「斬る」一冊。
対称性と言われて頭に思い浮かぶのは、正三角形や円形のような図形、あるいはワインボトルのような物体、タージ・マハルのような建物などだろうか。しかし、対称性は空間だけではなく、時間の中においても存在する。メトロノームの規則正しいリズムは時間的な対称性だし、バッハのインヴェンションもある種の対称性を形づくっている。本書では、対称性の科学的な定義を「変換に対する物体または系の不変性」(p.13)としている。
物理の世界においても、さまざまな場面で対称性を発見することができる。というか、宇宙の法則はほとんど「対称性」をその裏側にひそませていると言ってもいいくらいだ。本書はこのことを、宇宙の創成、時間と空間、慣性の理論、相対性理論、鏡映現象、量子力学、光、素粒子といった、つまり物理学のテキストが扱うほとんどすべての項目について明らかにした一冊である。
特に本書でフィーチャーされているのは、エミー・ネーターという女性数学者の存在だ。私はこの人のことを本書ではじめて知ったのだが、ダフィット・ヒルベルトやフェリックス・クラインといった大数学者に学んだこの数学者は、自身の名を冠した「ネーターの定理」において「物理法則におけるすべての連続的対称性に対して対応する保存則がある」ことを証明した。なんのこっちゃ、という感じだろうが、要するにこれは「すべての保存則は、自然法則の基本的な対称性を反映している」(p.92)ということであり、ひいては対称性こそが「自然の根底にある最も重要な主題」であるということなのだ。
対称性自体の存在はおそらくそれまでも知られていただろうが、それがこれほどまでに重要な役割を担っていることを明らかにしたのは、やはりネーターの功績ということになるのだろう。本書の内容もまた、こうしたネーターの視点をさらに広げ、深めたものにほかならない。物理の世界にある程度の理解がある方なら、おそらく「対称性」という切り口でありとあらゆる物理法則を解読しなおしていく本書の方法は、身震いするほどエキサイティングな体験になるのではないだろうか。
……なんて偉そうに書いた後ながら白状すると、私自身は、本書の解説のうち半分くらい、説明がチンプンカンプンのままとり残されていた。特に後半のゲージ不変性やら素粒子論やらでは、高校の数学の授業を思い出すほど、完全にダツラクしていたことを告白しなければなるまい。
それでも、わからないなりに反応できる部分もあった。中でも、この宇宙が「わずかな対称性の破れ」による偏りから始まったこと(さもなければ物質と反物質がぶつかり合って消滅し、宇宙には何も残らなかった)、「超対称性」という概念があり、それが物理学者の悲願であるすべての力を統一的に説明する理論、いわゆる「万物理論」になるのではないかとされている、などというくだりには、さすがに目が覚めるものがあった。
対称性というマジックワードの奥深さを知ることのできる一冊。私は分からないなりにムリヤリ通読するという力技に走ってしまったが、みなさんはぜひ、他の入門書と首っ引きでもよいので、じっくりしっかり読みこんでみていただきたい。そうすれば本書は、物理学全体の基本から最先端までに至る長大な「補助線」を引くための、たいへん優良なテキストになるように思う。