【1519冊目】西原理恵子・吾妻ひでお『実録! あるこーる白書』
- 作者: 西原理恵子,吾妻ひでお,月乃光司
- 出版社/メーカー: 徳間書店
- 発売日: 2013/03/15
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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アル中の夫をもった西原理恵子と、自らがアル中だった吾妻ひでお。この二人が中心になって、「外からの目」と「内からの目」で、ただひたすら「酒」「アル中」について語りまくる一冊だ。
『失踪日記』で描かれていた吾妻のアルコール中毒体験もすさまじいが、何よりびっくりしたのは、『毎日かあさん』で描かれていたサイバラの家庭が、実はシャレにならないレベルの悲惨な状態だったということ。小さい子供二人を抱え、仕事に追われるサイバラに向けて、夫は毎晩(サイバラの稼いだ金で買った)酒を飲んでは何時間も罵り、いびり続けたという。「いびりのわんこそば状態」とサイバラは表現する。笑えるけど、笑えない。
結局、サイバラは「本気で殺意が芽生えた」ため夫と離婚するのだが、それでもパニック障害や鬱にはずっと苦しめられたという。マンガでは豪快なキャラで自分を描いているが、実は精神的には相当ボロボロの状態だったらしい。しかもサイバラは、「もっと早く離婚してあげれば良かったかもしれない」と当時を振り返るのだ。それは自分のためでなく、夫のために。「もっと早く捨ててあげれば、あの人もっと早く底を付いて、気づきがあったんじゃないか」と。
この「底つき」というのが、アルコール依存に関するひとつのキーワード。この状態に至ることが、アルコール依存の治療には非常に大事になってくるという。そして、それをむしろ阻害してしまうのが「イネーブラー」と呼ばれる「助長者」の存在なのだ。
イネーブラーは依存者が引き起こしたことの謝罪や弁償、片づけや後始末をしてしまうなど、依存者を助けるつもりで結果的に依存者の気付きを遅らせ、病気の進行に手を貸してしまう。「愛情を持って突き放す」ことがかえって立ち直りへの早道であるという指摘は、カンタンに実行できることではないが、しかしやはり重要だ。
本書で何度も強調されているのは「アルコール依存症は病気である」ということ。つまり、「意志が弱い」とか「だらしがない」などと本人を非難するだけでは、ちゃんとした解決には結びつかず、かえって本人を飲酒に逃げ込ませるだけになってしまうということである。月並だが、正しく理解し、対応すること。つまりは専門性のレベルで対応するということ。対策としては、これに尽きる。
本書は、テーマはたいへんシリアスだが、そこはこのご両名の対談、ギャグをふんだんに交えた実に「楽しい」読み物にもなっている。依存者自身とその家族という組み合わせにもなっており、アルコール依存について肌感覚で知りたい方、家族がどれほど大変なものか知りたい方には、ぜひご一読をオススメしたい。