【1417冊目】梅森直之『ベネディクト・アンダーソン グローバリゼーションを語る』
ベネディクト・アンダーソン グローバリゼーションを語る (光文社新書)
- 作者: 梅森直之
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2007/05/17
- メディア: 新書
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ベネディクト・アンダーソン(面倒なので以下「アンダーソン」と書く)が早稲田大学で行った講義と、その内容をまとめつつアンダーソンの思想に迫った著者の「アンダーソン事始」の二部構成。『想像の共同体』を補足・展開するような内容であるため、この本を読んでいないと本書はいささか読みづらい。
一方『想像の共同体』を読んだ人は、ぜひ本書も併せて読むことを勧める。なぜって、本書においてアンダーソンは『想像の共同体』の内容を自己批判し、その内容を大きく展開しているからだ。
キーワードは「グローバリゼーション」。
アンダーソンは、『想像の共同体』においてナショナリズムの起源を近代の印刷資本主義に求めた。しかし(彼が後から考えたところでは)印刷資本主義は同時にグローバリゼーションの起爆剤ともなったのである。いや、むしろ本書の言い方になぞらえるなら、印刷資本主義そのものが直接的にもたらしたのはグローバリズムであったのだ。
「『想像の共同体』が、ナショナリズムの「図柄」に着目し、その発展と拡散に関心を向けていたとすれば、現在の彼の関心は、その「下地」を描くことにより、「図柄」の意味を浮き彫りにすることに向けられている。
出版資本主義は、ナショナリズムという「図柄」ではなく、むしろその「下地」を織りなしてゆく主要な要素として位置づけ直された。この「下地」の発展と編成がアンダーソンの次なる主題となる。彼はそれを「グローバリズム」という名で呼ぶのである」(p.154)
つまり、グローバリズムとナショナリズムは「相反するもの」ではなく、むしろグローバリズムがナショナリズムを生みだすという「土壌と作物」の関係にあるということなのだ。
もっとも、どうやらアンダーソンのいう「グローバリズム」とは、単なる経済の流れというより、人間の世界認識という、いわば思想次元のグローバル化を言うらしい。
それを著者は「つながり」という言葉で表現する。グローバルなつながりのなかで、ある地域のナショナリストの活動が他の地域のナショナリズムを刺激し、意識されていく。両者のこうした独特の関係性こそが本書の最大のポイントであり、アンダーソンが『想像の共同体』で言い落したことでもあった。
ところで本書には、『想像の共同体』刊行の裏話もいろいろ暴露されている。中でおもしろいのは、この本がヨーロッパやアジアで高く評価されたのに対し、アメリカでは「まったくの無反応」だったということだ。
ところが冷戦構造の崩壊とともに、なぜかこの本は注目されるようになった。1990年頃、アンダーソンはソビエト研究所をもっていたアメリカのある大学から講演依頼を受けたという。
「とんでもない、自分はソビエトについては何も知らない」と断ろうとすると、彼らは、ナショナリズムについての講義をしてくれれば良いのだと言う。理由を聞くと「設備の更新が必要なのです。なにしろナショナリズムは新しい脅威ですからね。どうかここへ来て、資金と学生、その他もろもろを集めるのに、一肌脱いでくれませんか……」
つまりナショナリズムは、ソ連に代わる新たな「敵」としての役割を与えられかかっていたのだ。もちろんここでいう「ナショナリズム」とは、アメリカ国外のもの。自分たちもナショナリズムの病理に侵されているなんて、911以前は、大半のアメリカ人は夢にも思わなかったようなのである……。