【1075冊目】諸富徹『地域再生の新戦略』
- 作者: 諸富徹
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2010/03
- メディア: 単行本
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グローバリズムの下で、地域はどのように生き伸びていけばよいか。その具体的な処方箋を探る一冊。
グローバリズムの現状と問題点を論ずる第1章に続き、そうした状況下で地域が「持続可能な発展」を実現するにはどうしたらよいかが、第2章で語られる。ここで言う「地域」とは、単に国の「内部」にとどまらず、ヨーロッパやアジアといった広域的な「地域」も含まれる。グローバリズムが国家という枠組みを超えるものである以上、そこで言う「地域」もまた、国家を超えた地域を含む概念でなければならないため、だという。実際、第2章で日本の長野県と並んで「持続可能な地域発展」のモデルとして取り上げられているのは、なんとEUだ。
財政構造改革をテーマとした第2章に対し、地域戦略をテーマとした第3章では、もう少し小さな地域をターゲットにする。取り上げられているのは中山間地域を代表して愛媛県内子町、商店街を代表して滋賀県長浜市、大都市を代表して神奈川県横浜市。
サイズも地域特性も抱えている課題もまるっきり異なるこの3つの事例は、しかしどこか似通って見える。観光農業やグリーン・ツーリズムへの転換に四苦八苦している内子町、「黒壁」とガラス産業で新時代のまちづくりの代表選手となった長浜市、そして創造都市を掲げて文化芸術を正面から取り上げる横浜市。どれもきわめて個性的で、単純な模倣をゆるさない独自色がある。
そうなのだ。この3つが似ているのは、逆説的なことに、「地域の個性」という「まったく他と似ていない」要素を正面から押し出しているまさにその点なのだ。そういえば、伝統的な町並みを保存しつつ活かしている点でも、この3つは共通している。そして、単に過去の遺産をそのまま「復刻」するだけでなく、そこに新たな要素を付け加えて魅力を倍加させている点も。
本書が取り上げる事例には、実は成功例と言いきれるかどうか微妙なものもある。だが、あえてこうした事例を取り上げた真意は、まさにこれらのケースこそが、グローバリズム下における地域再生という難題へのヒントを多く含んでいるからであろう。人的資本や社会関係資本を(それと意識しているかどうかは別にして)育成・活用し、ソフト中心・ハード追随型で、内発的かつ地域自立的。
ややこしい話ではあるが、グローバリゼーションの時代だからこそ、生き残るのは「地域独自」「地域自立」の道のほうである、と著者は言う。それはおそらく、そこにこそ真の「価値」が宿るからなのだろう。その価値は物質的価値ではなく、本書に言う「資本主義経済の非物質主義的転回」を踏まえた多元的な価値なのだ。物質的・金銭的価値のみでは、結局はグローバル経済に呑み込まれる。そこを超える真の価値を見出すことこそが、グローバリズムに対抗するとまではいかなくとも、その中を泳ぎきる地方の「処世」なのである。