自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【1396冊目】松崎康弘『審判目線』

審判目線 面白くてクセになるサッカー観戦術

審判目線 面白くてクセになるサッカー観戦術

審判にもいろいろあるが、本書で取り上げられているのはサッカーの審判。しかし、その難しさや醍醐味は、たぶんいろんなスポーツに通じてくるのだろう。

考えてみれば、サッカーの審判ってのは大変な仕事である。主審、副審2人、「第4の審判」の4人であの広いフィールドをくまなく視野に収め、瞬時に正しい判定を下さなければならない。ボールを見て、選手同士の接触をチェックし、オフサイドを確認する。2人で同時に3つ以上のポイントを見なければならない場面も多いが、そんなことができないのは小学生でもわかる。著者は言う。

「主審と副審の2人で3つのポイントを見なければならない以上、無理があることを承知の上でサッカーという競技は行われている。そこでミスが起こる可能性があることもサッカーの一部である」(p.165〜166)

なるほど。そもそもアレは「無理」なコトであったのか。

そんな状況なのであるから、どんなにすぐれた審判でも、100%のジャッジメントは不可能である。だからといって、あまりに審判のミスが多いとゲームが成り立たなくなる。そこでFIFAが約33億円を投じて実施したのが「審判援助プログラム」だった。その結果、2010年の南アフリカ大会での実績は次のようなものであったらしい。

145得点のうち、審判によって正しく認められたのは142得点
オフサイドの判定は13回で、すべて正しかった
本来得点とされるものが認められなかったのが、2回
ペナルティーエリア内のファウル15回は、すべて正しくPKと判定
ペナルティーエリア内でノーファウルと判定された50回のうち、5回はファウル(PK)

これが「成功」と言えるかどうか、何をもって判断するのかちょっと難しいが、例えば得点に関して言えば、判定160回のうち155回、96.8%が「正しい判定」だったというのだから、これは相当に立派な数字ではなかろうか。これ以上ミスジャッジを減らしたかったら、人間の審判に代わる別のシステムを導入したほうがよい。だがサッカーは、ビデオ映像の確認などの時間でゲームのスピーディな流れが断ち切られることよりも、人間の審判の迅速なジャッジによる「流れるゲーム」を選んだのだ、と著者は言う。

とはいえ、これが一つ一つの間違いとなると、黙っていられないのが人間というものだ。特にサッカーは極端なロースコア・ゲームであり、1点が認められるかどうかがそのまま勝敗に直結する。それが4年に一度のワールドカップだったりすれば、人間には間違いがあると分かっていても、納得できるものじゃない。

著者ももちろん、そのことは重々分かっている。だから本書の中で挙げられているミスジャッジをおかした審判へのコメントは、実に厳しく容赦がない。サッカーのルールが単純に見えてこれほど奥深く、また表に現れた行動だけでなく選手の「意思」「意図」までを読み取らなければならないほど繊細なものであると、私は本書で初めて知った。

副題の「面白くてクセになるサッカー観戦術」というフレーズは、嘘ではない。というか、ちょっと時期的には間に合わなかったが、願わくばロンドンオリンピックのサッカーを、本書片手に見たかった(あ、でもW杯のアジア最終予選が始まるから、そっちで楽しめば良いのかもしれない)。サッカーの「もうひとつの楽しみ」を特別席から紹介してくれるような、なかなか楽しい一冊であった。