【1386冊目】佐藤優『読書の技法』
読書の技法 誰でも本物の知識が身につく熟読術・速読術「超」入門
- 作者: 佐藤優
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2012/07/27
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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オビに「月平均300冊、多い月は500冊以上」なんて書いてあるので、てっきり速読法のようなノウハウ本かと思って手に取ったらまあびっくり、熟読を中心としたかなりハードで本格的な読書論だった。
速読のやり方も(超速読・ふつうの速読の二段階に分けて)紹介されているが、これはあくまでも熟読に値する本を発見するためのスクリーニング。重要なのは、そうやって獲得した「読むべき本」をきっちり読み、自分の血肉とするための方法だ。それがつまり著者のいう、知の技法としての読書術なのである。
したがって本書の核心となっているのは第2章「熟読の技法」。基本書は3冊、5冊と奇数で買うこと、本は徹底的に汚すこと、抜き書きとコメントをノートに書くことなど、めっぽう実用的で、しかも読書の本質に届くようなノウハウが惜しげもなく開示されている。
ちなみに「本は3冊で買う」「本はノートである」「再読は絶対必要」など、誰かが同じようなコトを言っていたと思ったら、松岡正剛氏であった。佐藤優と松岡正剛の組み合わせなんていかにも異色だが、案外似たところもあるのかもしれない(ちなみに両者の対談が『松丸本舗の挑戦 松岡正剛の本棚』に収録されていて、そこでも佐藤流読書術の一端が披露されている)。
もうひとつ、本書が強調している点(そして、他の読書法の本ではめったに書かれていない点)が、基礎知識・基礎学力の重要性だ。具体的には、高校レベルの知識をきっちり身につけること。なぜなら、この頃に学んだことがその後の読書で知識を重ねていくための土台になるからだ。センター試験の問題も解けないのに、最先端の専門書を読んで理解できるワケがない、ということである。ごもっとも。
いやいや、ここはたいへん耳が痛いところで、確かに「そういえば以前に勉強したような……」という覚えがあっても、具体的な中身はすっかり忘れている、ということが、本を読んでいるとしょっちゅうある。にもかかわらず、そのたびにいちいち当時の教科書をひっくりかえしたり、参考書を求めることまではしていない。著者に言わせると、そんなことだから本を読んでも知識が定着せず、理解不十分なままなのだ、ということになる。おっしゃるとおり。
特にヤバイのが数学や物理など理系の分野で、ここはごっそり基礎知識が欠けているのを自覚しているが、なかなか本腰を入れて勉強しなおそうという気になれないところなのだ。たしかに数学関連の本なんかを読むと危機感を感じることはあるが、正直、そこまでの労力はかけていられない。だいたい私の場合、数学や物理の本を読むのは半分以上「楽しみのため」であって、割り切って言えば、その世界の「匂い」が嗅げれば十分なのである。あ、でもこれってただの言い訳か。
それはともかく、自分に引き付けて言えば、法律や政治、それに関連する日本の近現代史など、「楽しみ」だけでは済まない分野の本の読み方、勉強の仕方については、本書のノウハウがたいへん参考になった。もちろん高校時代に行政法や地方財務の授業があったワケじゃないが、そのかわり公務員試験や昇任試験の勉強が効いているし、そこを基礎部分として知識を積み上げていかなければならないのだ。
一般のビジネスパーソンもそうだろうが、自治体職員もまた「日々が勉強」の仕事である。特にわれわれ事務職は、異動のたびに知識の総入れ替えをしなければならないため、本書に書かれているような「知の技法」の存在はものすごく重要だ。普段の読書をここまで「カタにはめる」ことはできないかもしれないが、本書はいざというときの「座右の一冊」として手放せない存在になりそうだ。