【1382冊目】ミランダ・ジュライ『いちばんここに似合う人』
- 作者: ミランダ・ジュライ,岸本佐知子
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2010/08/31
- メディア: ハードカバー
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寂しかったり、孤独を感じたりするのは、一人の時とは限らない。家族や友達、恋人と一緒でも、なんだか心の内側にぽっかりした空洞を抱え込んでしまうことがある。むしろそういう時の「孤独」のほうが、根が深くて、やっかいだ。
本書を読みながら、そんなことを漠然と考えていた。いろんな短編が収められているのだが、そこに出てくる主人公(たいてい女性)ときたら、どうしたわけか、みんなどうしようもなく寂しげなのだ。
寂しくて孤独で、なんとなく人恋しい気分の時って、なぜか後から思い出すと赤面してしまうような、ヘンな事を言ったり、やったりしてしまう。そんなことって、ありませんか。あれって、なんなんでしょうねえ。周囲とうまくいっているときは取れているバランスが崩れて、自分の思いが暴走したり、いつもは隠れている感情が表に出てきてしまうんでしょうか。
少なくとも本書に出てくる人たちは、そういう「寂しさ」や「人恋しさ」ゆえに、奇妙な行動に走っているように見えた。傍から見れば、なんともみっともないのだが、それが読んでいて、いとおしい。その気持ち、分かる分かる。そんなふうに言ってあげたくなる。
かなり「きわどい」セクシャルなシーンも出てくるが、あまりいやらしさを感じない。まあ、たいていの場合、さっき書いた「みっともない行為」「思いの暴走」が一番出やすいのは(そして後から決まって後悔したり赤面するのは)セックスにまつわる言動であって、だからこそ生々しい用語や描写が飛び交うわりに、妙な落ち着きと透明感があるのかもしれない。
著者は本書がはじめての小説集だというが、そのあたりのバランスのとり方と描写の過不足のなさは、とんでもなく巧い(ちなみに翻訳もお見事だ)。もっとも、プロフィールをみると著者の肩書は「パフォーマンス・アーティスト」「映画監督」ということらしいので、むしろ小説よりタイトな表現環境の中でずっと表現を続けてきた方ではあるらしい。会話のみごとな「キレ」や独特の映像的な感覚は、そこから来ていたのか。
いろいろ印象に残る話が多いのだが、妙に忘れがたいのは「あざ」という短篇。なぜかって、読んでいてむしょうに、芥川の「鼻」を思い出してしまったからだ。結末のつけ方まで似ている……というか、他の小説もそうなのだが、この人の短篇って、どこか芥川に共通するセンスがあるのかもしれない。そういえば小説によっては、太宰っぽいところもある(みっともなさの描写とか)。
ということはこの人、並はずれた短篇作家の才能がある、ということだ。映画や演劇の世界から小説家デビューする人はけっこう多いが、この人はかなり成功しそうな気がする。1974年生まれの、まだまだ今後が楽しみな作家さんである。