【1117冊目】ジョージ・ガモフ『1,2,3・・・無限大』
- 作者: ジョージガモフ,George Gamow,崎川範行
- 出版社/メーカー: 白揚社
- 発売日: 2004/10
- メディア: 単行本
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世界を成り立たせている原理を、これほど面白く伝えてくれる本はない。
われわれの直観や常識が、科学の理解に際しては最大の妨げになる。だから科学の世界を知るためには、いったん経験則の世界をわきに置いて、論理と数式に身をゆだねることが必要になる。
しかし、論理の積み重ねを頭の中だけでやっていくのはけっこう大変だ。数式なんかが出てきたら、私なんぞはアレルギー反応もいいところで、理解しようとする前に、じっくり眺めることさえ目が拒否する。そんな抽象理論アレルギーの患者にとって、本書の存在は恩恵にひとしい。
本書の面白さは、説明の巧みさに加えて、比喩のうまさによるところが大きい。具体的な経験則が役に立たない理論の世界を、巧妙なアナロジーで別の「具体的事象」に置き換えて説明してくれるので、単に頭で「理解できる」だけでなく、ちゃんとそのロジックが「腑に落ちる」のだ。そうなれば、そのあとの理論の積み上げにもついていきやすく、大変ありがたい。
取り上げられているのは無限数や虚数などに始まり、空間と時間をめぐるアインシュタインの理論(のさわり)、分子や原子、素粒子などの「モノの成り立ち」、確率論とエントロピー、生命論、宇宙論と、ほぼ20世紀基礎科学のフルコース(量子論がなく、相対性理論も「さわり」だけだが、これは同じガモフのトムキンスシリーズがある)。そして驚異的なことに、これだけのラインナップを解説するのに、やや難しいと感じる部分はあっても、つまらないと思える部分はこのどこを探しても見当たらないのだ。
本書で取り上げられている理論の中には、すでに古くなっているものもいろいろあるだろうと思う。なにしろ本書の原書が最初に出たのは1947年なんだから。その点は最新の科学書で補完しなければならないだろうが、それでも本書は、科学好きになりたいと思う人にとっては必読書であると思う。
それは、繰り返しになるが、これほど楽しく、エキサイティングに、ユーモラスに科学を語れる人は、たぶん現在に至るまで登場していないからだ。科学理論の「とっつき」の、一番ハードルの高い部分を、本書はらくらくと乗り越えさせてくれる。そこを超えてしまえば多分、新たな理論や考え方をそこに「付け加えていく」のは、そんなに難しいことじゃない。誰かが本書を高校か大学の教科書にすべきだと言っていたらしいが、同感だ。もっとも、本書ほど巧みに書かれていれば、おそらく理解するために先生はいらないかもしれないが。