自治体職員の読書ノート

自治体で働くソーシャルワーカーが、読んだ本を紹介します。

【2425冊目】サイモン・シン『宇宙創成』

 

宇宙創成(上) (新潮文庫)

宇宙創成(上) (新潮文庫)

 

 

 

宇宙創成(下) (新潮文庫)

宇宙創成(下) (新潮文庫)

 

 

原題は「Big Bang」。ビッグバン・モデルが広く認められるまでの科学者たちの悪戦苦闘を、なんと古代ギリシア宇宙論モデルから説き起こした一冊だ。

ニュートンは「もしも私がほかの人たちよりも遠くを見たとすれば、それは巨人たちの肩の上に立ったおかげなのです」と言ったという。実はニュートンは、背の曲がった同僚を揶揄するためにこんな言い方をしたというが(上巻180ページ。本書にはこういう裏話もたくさん取り上げられている)、それはともかく、本書ではこの「巨人の肩乗り」ピラミッドがひたすらに展開されている。

エラトステネスからコペルニクスガリレオアインシュタインフリードマンルメートルハーシェル、リーヴィット、ハッブル、ガモフ、ホイル。いずれも桁外れの人々が、何世紀もかけて組体操のように「肩に乗り」続けたことで、想像を絶するビッグバン・モデルが生まれ、検証され、時には罵倒され、反発されながらも、現在の立ち位置を占めるに至ったのだ。ホイルなどは定常宇宙論を提唱してビッグバン理論に徹底して対抗したが、それがかえって多くの発見や考察や検証を生み、ビッグバン理論を支えたことがよくわかる。ライバルが相手の成長を促すのは、スポーツだけの話ではない。

真の意味でのビッグバン理論の「提唱者」アレクサンドル・フリードマンや、天文台の無給ボランティアからスタートして宇宙論を塗り替える発見をしたヘンリエッタ・リーヴィット、宇宙からの電波をはじめて検出したAT&T社の下級研究員カール・ジャンスキーなど、あまり知られていない人々に着目しているのも素晴らしい。一見難解な特殊相対性理論一般相対性理論原子核の融合や放射線、宇宙マイクロ背景放射についても、驚くほど分かりやすく、また発見の経緯込みでドラマチックに記述されている。個人的には、ドップラー効果赤方偏移の理屈が、本書ではじめてちゃんと理解できた(カエルの例えを使った説明が秀逸! 上巻355ページの図)。 宇宙の神秘、世界の成り立ち、人間のドラマが渾然一体となった傑作ノンフィクションであり、宇宙論解説の決定版。おすすめです。