自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【894冊目】外山滋比古『自分の頭で考える』

自分の頭で考える

自分の頭で考える

著者の考え方やものの見方をエッセイ風に披露する一冊。

ふんふん、なるほど、が6割くらいで、え、それはちょっと・・・と首を傾げるのが4割くらいだった。著者の考え方の基準は、ご専門の英米文学、ひいては英米型のものの考え方にあると思われるのだが、それを日本に当てはめるときの方法にちょっと違和感を感じた。例えば、英米のクラブ文化について論じて日本にあてはめるなら、江戸時代の「連」についてなぜ触れないのか。積極的に議論するのが英米型のルールであると知っておくことは確かに大事だが、それに日本人が「合わせる」べきなのか。また、「相手が迷惑と思うだろうから病院には見舞いに行かない」「『長』のつく肩書きはもたないようにする」などの「信条」も、学生の時に読めばそれなりにカッコいいと思えたかもしれないが、社会人としての目線で読むと、ただの世間知らずの学者の姿にしか見えず、なんだかなあ、という感じ。

一方、納得できる指摘も多く、特に外国語を学ぶことを通して、そのコトバの思考方法を学ぶという部分は興味深い。また、寄宿舎生活を綴った部分も印象に残った。タイトルの「自分の頭で考える」は、知識偏重を戒め、知識の蓄積より思考力を養うべきであるとするもので、これは納得半分、不同意半分。知識を得ようとすること自体は、おそらく問題ではない。知識に振り回され、知識を思考の代替品にしようとすることが誤りなのだと思う。大切なのは、いろいろな知識を自分の中できちんとマッピングし、体系づけることではなかろうか。それは、コンピュータにはできないことであり、人間の出番となる部分であろう。

「あとがき」を読むと、どうやら編集者がテーマを決めて著者にインタビューし、その内容を構成したものであるらしい。おそらく、今もロングセラー街道驀進中の『思考の整理学』の売れ行きにあやかろうと、あわてて作られた本なのだろう。個別のトピックには面白いものもあるが、総じて造りが安易で、掘り下げが浅く、あまり読み手の心に届くものがない。だが、モノの見方にはさすがにキラリと光るものを感じる。日本語に関する著作がいろいろあるらしいので、一度覗いてみようか、と思う。今度は著者が腰を据えて「ちゃんと書いた」ものを選ばなくては。