自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【2646冊目】井上ひさし『井上ひさしの日本語相談』


読者からのさまざまな質問に井上ひさしが回答する、というスタイルの一冊。


回答も素晴らしいが、質問がなかなか良いところ、日本語にとって痛いところを突いているので、こちらを見ているだけでもおもしろい。


例えば、


「三大美人」「三大夜景」などというが「四大美人」「四大夜景」と言わないのはなぜか。


「けんか」が「夫婦げんか」、「島(しま)」が「桜島(さくらじま)」のように、単独だと清音なのに、前に言葉がくっつくと濁音になるのはなぜか。一方「くず」は「ほしくず」、「川(かわ)」は「山川(やまかわ)」など、濁らないものもあるのはなぜか。


車は「走る」、飛行機は「飛ぶ」なのに、なぜ船は「泳ぐ」と言わないのか。


「いい天気」と「よい天気」のように「いい」と「よい」があるが、どちらが正しいのか。


といった具合である。


これに対する答えも、鮮やかに正解が出るものもあれば著者の井上ひさしが口ごもってしまうようなものもあり、なかなか正直だ。ただ、答えがないようなものでも著者なりの知識に基づく推理を働かせているものもあって、これがまたおもしろい。


ちなみに「いい」は「よい」が江戸風に訛ったもので、「よい」に比べると口語的なのだそうだ。だから「いい」は基本的に「よい」に復旧できるのだそう。


あと、質問の中に「通訳をしていて『他人の褌(ふんどし)で相撲をとる』という発言を『他人のパンツでレスリングをする』と訳してしまった」というものがあって、末尾に「東京都大田区・ロシア語通訳」となっていたが、これ、米原万里さんですね。このエピソード、彼女のエッセイのどこかで読んだ記憶がある。


ちなみにこの質問への回答では、なんと褌はもともと女性が使っていたものを男性も使うようになったという記述があり、そっちのほうに驚いた。しかも大正初期までは、女性も褌をしていたという。その理由ははっきり書かれていないが、どうやら生理による出血への対応として使われていた様子。となると「赤い褌」も、ひょっとすると生理による出血を目立たなくさせるためのカラーリングなのかもしれない。まあ、これは余談ですが。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました!