【719冊目】シュレーディンガー『生命とは何か』
- 作者: シュレーディンガー,Erwin Schr¨odinger,岡小天,鎮目恭夫
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2008/05/16
- メディア: 文庫
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本書を書いたシュレーディンガーは、「シュレーディンガーの猫」で知られ、波動力学によっていわゆる量子力学の世界をひらいた物理学者。その視点を活かしつつ、生命というものの本質にするどく切り込んだ本書は、生物学の古典的名著として名高い。
思えば、モノの「仕組み」を扱う物理学が、生命を扱えないと考えるのも奇妙である。生命も原子の組み合わせによって成り立っていることには変わらない。ただ、通常の「モノ」そのままの考え方では、生命を扱いかねるのも事実。
そこでシュレーディンガーが入口として導入したのが、「非周期性結晶」として生命を捉える考え方。これによって、物理学のモノサシの延長上に、生命をみることが可能になった。さらに、量子論の「量子飛躍」で遺伝子の突然変異を解釈し、突然変異という生物学上の大事件を量子力学の視点から説明づけている。
そして、本書のクライマックスともいえるのが、「生命は負のエントロピーを食べている」という有名な指摘である。どういうことか。生命も物質である以上、エントロピー増大の法則により、エントロピーが最大化した「平衡状態」=死に至ろうとするはずである。しかし、生命はそれにもかかわらず独自の秩序を有している。その理由としてシュレーディンガーが考えたのが、生命は「負のエントロピー」を摂取することで、増大する「正のエントロピー」を相殺し、みずからの体を低いエントロピー状態に保っている、という図式であったのだ。
「負のエントロピー」という概念の分かりにくさもあって、この指摘は大論争を巻き起こし、現在でも波紋はおさまっていない。しかし、個人的には、この考え方にはどこか生命の本質にぐさりと切り込んでいるものを感じる。原書は50年以上前のもので、いささか古くなっているところもあるが、それでも本書の根底に横たわっている視点や思想は、現在にも通用する「本物」である。