【675冊目】ジェフリー・ディーヴァー『スリーピング・ドール』
- 作者: ジェフリーディーヴァー,池田真紀子
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2008/10/10
- メディア: 単行本
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リンカーン・ライムシリーズの『ウォッチメイカー』に出てきた「人間嘘発見器」キャサリン・ダンスを主人公にしたスピンオフ作品。人を心理的に支配することに長けたカルト指導者ダニエル・ペルと、人のわずかな言動から心理を洞察し、嘘を見抜くダンスの戦いを描く。
冷酷で頭の良い犯罪者と、科学的手法でそれを追い詰める捜査側、というディーヴァーの得意パターンだが、今回はそれにダンスの家族とのきずなや恋愛といった要素が(事件と密接に絡むようにして)クローズアップされている。しかも、その混ぜ方が実に自然で、わざとらしくない。こういう「小説としてのうまさ」をディーヴァー作品に感じたのは初めてだった。
もちろんサスペンス面も十分のできばえ。お互いにいかに相手を出し抜くかという、ハイレベルの頭脳戦のオンパレードで、読んでいると何を信じて良いのか分からなくなるほど。お決まりの「どんでん返し」も、これまでとはちょっと違うパターンで仕掛けられていて、これはこれで唸らされた(実を言うと、「こいつはたぶん怪しいな」と前半ですでに勘付いてはいたのだが、そのひっくり返され方が思っていたのとかなり違った)。うーん、うまい。
ちょっと意外だったのは、タイトルになっているわりに「スリーピング・ドール」ことテレサ・クロイトンの登場が思いのほか遅く、確かに重要な証言はするのだが、それほど決定的な(小説全体を決定づけるような)役割ではなかったこと。たしかにこれをタイトルにしたことで訴求力はあるが、もっとほかのタイトルはなかったのだろうか。あ、ちなみにテレサというのは、ペル一味によって惨殺されたクロイトン一家の唯一の生き残り。おもちゃに埋もれるようにベッドで眠っていたため見逃されたとして「スリーピング・ドール」と呼ばれるようになった、当時9歳の女の子である。
とにかく、毎度のことながら、実によくできたエンターテインメント。ダンスという人間も奥行きをもってしっかりと描かれている。これだけ小説の中で「生き始めて」しまうと、続編を書かないわけにはいかないんじゃなかろうか。