自治体職員の読書ノート

自治体で働くソーシャルワーカーが、読んだ本を紹介します。

【603冊目】フィリップ・コトラー&ナンシー・リー「社会が変わるマーケティング」【604冊目】上野征洋・根本敏行他「市民力」【605冊目】淡路富男「自治体マーケティング戦略」

社会が変わるマーケティング――民間企業の知恵を公共サービスに活かす

社会が変わるマーケティング――民間企業の知恵を公共サービスに活かす

市民力―ソーシャル・マーケティングのすすめ

市民力―ソーシャル・マーケティングのすすめ

自治体マーケティング戦略

自治体マーケティング戦略

民間にお勤めの方が聞くと驚倒されるかもしれないが、自治体の大部分はろくに「マーケティング」というものをやっていない。

もちろん、マーケティングの「一部」にあたることは、多かれ少なかれいろいろやっている。内外の環境の分析、住民ニーズの把握やそれに応える政策の立案・実施、流通チャネルやコストの検討、PRなど、まがりなりにも取り組んではいるのである。

しかし、それらを「マーケティング」の一部と自覚してやっているわけではない。個々の「良かれと思う」作業を散発的にやっているだけである。中には、それがうまく行く場合もある。だが、ご承知のとおり、大多数はなかなかうまくいっていない。個々の取り組みが、「マーケティング」というひとつの「方法」として捉えられていないからである。

マーケティングは、ビジネスの世界で一定の完成をみた一連の「方法論」「メソッド」である。そこでは、コトラーの本が示すところでは、次のような手順が組み立てられ、それに沿って個々の施策を的確に実施していくことで、一定レベルの「品質」が保たれるようになっている。

状況分析(背景・目的、SWOT分析、競合分析、過去・類似活動とその結果)

目的と目標の把握(数値目標化)

ターゲット・オーディエンスの把握

ポジショニング(施策などがターゲット・オーディエンスの目にどう映るか)

マーケティングミックス(4P:Product,Price,Place,Promotion)

評価計画

予算

実施計画

細かい内容はコトラーの本に譲るが、ざっとこういう感じである。いわゆるPDCAの流れにも似ているが、ずっと具体的で、洗練されたものとなっている。特に漠然としやすいP(Plan)の部分が完全に方法化されている。

もちろん、こうしたメソッドに限界がないわけではない。本当に革新的な施策は、官民問わずこうした「型」を破ったところにこそ現れるものである。しかし、そのためにはこうした「型」を身につけることが必要なのであって、それは芸道の世界もビジネスの世界も、そして公共政策の世界も変わらない。

さて、ではこうしたマーケティング・メソッドを単純に自治体現場にあてはめることができるかというと、これが実際にはなかなか難しいように思う。その理由は、自治体側の意欲の問題もあろうが、何より予算編成と議会対策を軸とした従来の政策立案・実施プロセスと、マーケティングの方法論とがあまりにもかけ離れたものとなってしまっているからである。強いて言えば、予算要求前の事業課における政策検討のレベルでマーケティングをきちんと実施することなのだろうが……。また、ステークホルダーの複雑さ、自治体の目的自体の多元性もマーケティングとは相容れない。

このあたりを架橋し、自治体の現状とマーケティングの接点を求めて「市民力」や「自治体マーケティング戦略」を読んだのだが、前者はそもそも「ソーシャル・マーケティングのすすめ」と副題で謳っているわりにはマーケティングそのものに対する理解もあやしく論外、後者はそれなりに配慮がなされているものの、あまりにも安易に民間企業と自治体の競争性を同一視しすぎているのが気になった。

むしろ、最初に読んだコトラーの本が、具体例の豊富さといい、それを一般理論に落とし込む手際といい、「民間」と「公共」双方への深い理解を踏まえた、両者をまたぐマーケティング論となっており、学ぶべき点が最も多かったように思う。政策立案の汎用メソッドとして、コトラーの本は自治体職員必読かもしれない。