自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【464冊目】今井照「新自治体の政策形成」

新 自治体の政策形成

新 自治体の政策形成

「自治体の政策形成」といわれるときの「政策」ということばは、いままで普通に使われてきた政策ということばが意味することとは違う

本書の「はじめに」で著者が投げかけている言葉である。本書は、この言葉の意味するところを解き明かす一冊にほかならない。

著者はまず、自治体政策形成の現場を徹底的に描き出す。総花的で寄せ集めの「基本計画」「総合計画」、国からの補助金に縛られた政策立案、予算策定のプロセスでほとんどの政策形成が事実上終わってしまうこと、そういった過程が行政内部のみで完結する透明性の低さ……。著者自身の大田区職員時代をおそらくは踏まえて書かれたであろうこの一連の描写ほど、自治体政策の現場の現実を赤裸々に描いた本はなかなかない。大事なのは、こうしたプロセス自体はそれなりの理由と合理性があって形成されている、ということ。本書はそのあたりをとても丁寧に扱った上で、あえていったん原則論に戻り、「市民」「首長(行政)」「議会」という政策主体間関係の分析を経て、「自治体行政のやること全てを市民の生活の側から構築する」というテーゼを提出する。このテーゼが、冒頭の「謎かけ」に対応した答えとなっているように思われる。

著者はこの認識をベースに、これからの自治体政策のあり方を3種類にまとめている。この分類がなかなか面白く、的確だと思うのだが、第1に「モデル型政策」から「地域資源型政策」、第2に「バランス型政策」から「特化型政策」、第3に「計画型政策」から「メルクマール型政策」であるという(いずれも、前者はこれまでの政策の特徴)。中でわかりにくいのは「メルクマール型」であろうか。これは、いわゆる基本計画や総合計画などに基づいて政策決定をするのではなく、状況の絶え間ない変化の中で、「こういう場合にはこういう基準でこうする」という「手続き」を決めておく、ということであり、つまりは従来の、基本構想→基本計画→総合計画→事務事業というピラミッド型政策体系へのアンチテーゼである。その代わりに著者が提示するのが、個別の政策や事業から複数の目標、メリットやデメリットを導き出す「逆引きの政策体系」。

素晴らしいと思う。個人的には大賛成である。あまりに理念的な市民と行政の関係についてはやや抵抗を感じるところがあるし、現在の政策形成プロセスから理想とする政策形成プロセスへの架橋はあまりうまくいっていないような気がするが、そんなことはこの「逆引き」だけでも帳消し、と言いたいくらい絶賛したい。他にも、本書には目からウロコが何枚も落ちる視点とパラダイムの転換が随所に示されており、政策形成というものを少し:でも考えたい方には無条件でお薦めしたい。