【448冊目】大西隆他編「都市再生のデザイン」
有斐閣の「新しい自治体の設計」シリーズ第2巻。都市再生やまちづくりに関するトピックを扱っている。
まちづくりと市民参加、地方都市の衰退と再生などの典型的なテーマも扱われているが、読んでいて興味を惹かれたのはむしろ各論部分。アメリカの例を引きつつ論じる「まちづくりと受益者負担」は、単なる受益者負担を超えた「負担者受益」や「負担者自治」の発想が面白い。これらの考え方は、受益を前提に負担を課すのではなく、まず負担をする意志をもち、市民自治の手法でまちづくりに結びつけていくというものである。その仕組みはアメリカならでは、という感じもするが、制度設計がうまくできれば日本でも可能性はあるように思える。
また、災害や犯罪とまちづくりの関係では、いわゆるハード面の整備だけではなく、住んでいる人々の生活にまで気を配ったソフト面の対策も含めて「まちづくり」であることがよく分かる。そのことがさらに徹底されているのが、バリアフリーとまちづくりの関係を論じた章。ハード整備の法制定だけではなく、多面的で人々の意識にまで踏み込んだ対策がなされなければバリアフリーとはいえないのである。環境アセスメントを真似た「バリアフリー・アセスメント」の発想も面白い。
しかし本書で一番インパクトがあったのは、「都市と精神・自殺」という章。タイトルだけでもなにやらドキッとさせられるが、内容にはさらに驚かされる。著者が紹介する研究は、都市の「音」に着目し、熱帯雨林の環境音と都市の環境音を比較した上で、可聴音域を越えた高周波音域(要するに高すぎて人間の耳には聴こえない音)が前者には多く含まれていることを発見したらしい。そして、こうした自然の超高周波音を環境音に含ませることで、脳基幹部が活性化し、生活習慣病や精神疾患に好影響を与える可能性があるというのである。
もちろん実際にはもっといろいろな条件があるのだが、このことは、都市の「音」を変えることで人々に「癒し」を与え、自殺者の低減にも役立つ可能性があることを意味する。こうした試みは、従来行われているまちづくりのプロセスからは大きくはみ出すものかもしれない。しかし、音も含めて都市という人工的な空間が人々の精神に与える影響は、これからのまちづくりにあたっては必ず考えていかなければならないテーマであろう。