自治体職員の読書ノート

自治体で働くソーシャルワーカーが、読んだ本を紹介します。

【449冊目】丸谷才一「文章読本」

文章読本 (中公文庫)

文章読本 (中公文庫)

前に読んだ井上ひさしの「自家製文章読本」で絶賛されていた一冊。

読んでいていろいろ思うところはあったのだが、特に感じたのは、現代の口語体の日本語ばかりを読んでいてはダメだということ。日本語の流れはその前の文語体や、あるいはその前の古語、さらにはその前の漢文にまでさかのぼるものであり、そうした江戸〜明治初期あたりの言葉や「古文・漢文」の素養が、現代日本語で文章を綴る上でも決定的な影響をもたらすらしいのである。

著者が言う「名文を読め」とはおそらくそういうことであって、また、よくいわれる「古典を読む」というのも同じことなのだと思う。知識云々というよりも、そこに流れているリズムや音韻、言葉の連ね方、対比や比喩などの要素を、水が土に滲み込むように身体に滲み込ませること。それによって、いわば無意識的に、日本語文章の骨法を会得し、それに沿った文章が書けるようになる。

特にわれわれ自治体職員の場合、仕事がらどうしても「お堅い」文章を書かざるを得ないことが多く(この「読書ノート」もそうかもしれないが)、それだけならまだしも、本書で指摘されているような実感の裏付けのない抽象語(「施策」とか)が乱れ飛ぶ醜悪な文章を平気で書いてしまうことが多いように思われる。もちろんそれも行政文書としてのひとつの「型」ではあるのだが、特に住民向けの文章を書く時には気をつけなければならない。

なお、本書が良いのは例文が多彩、かつひとつひとつの例文をたっぷり引用しているということである。説明に関連する箇所がたとえ一行でも、パラグラフひとつ、あるいは短いものであれば文章丸ごとが引用されている。ジャンルも小説、エッセイ、古典と多彩である。良質の「名文」をたくさん読んでほしいという著者の思いが、そこに表れているように思える。