自治体職員の読書ノート

自治体で働くソーシャルワーカーが、読んだ本を紹介します。

【438冊目】池上岳彦「分権化と地方財政」

分権化と地方財政 (現代経済の課題)

分権化と地方財政 (現代経済の課題)

三位一体の改革」がきわめて中途半端な形で終わり、いまや、地方財政改革はほとんど頓挫したに近い。本書はそうした中、あるべき地方財政の姿と現状を丁寧に見つめ、その落差を埋めるための方策を提示した一冊。

前半、第1章から第3章までは、著者自身が地方財政制度のあるべき姿として構想する「分権的福祉政府」のありようを導き出す内容となっている。この「分権的福祉政府」のキーワードとなるのが「新しいワークフェア」概念、すなわち「対人社会サービスの現物給付による所得再分配」ということになる。この「対人社会サービス」を確保することで、生活の場に「社会的セーフティネット」を生み出すことが、地方政府の主要な任務であり、分権的福祉政府のあるべき姿、ということになる。こうした対人社会サービスを実施するのは、本来、同じ地域に住む人々の労働提供によるはずであるが、これは地方政府による提供のほうが効率的であるため、地域の人々は納税をもって労働提供に代え、これを地方政府は再分配する。地方の住民の納めた税を当該地方で分配するのであるから、その内容は当然、その地方政府、すなわち自治体が行う。決定権は自治体にあるのである。

したがって、地方税に基づく社会的セーフティネットの構築を行うことが地方政府の主要な任務となる。そのために必要な費用は原則として地方税をもって調達されるべきであるから、現在の、歳入ベースでは国:地方=6:4、歳出ベースでは国:地方=4:6となっているという不均衡は見直し、地方に税源委譲をすべきであるし、一方、水平的な財政不均衡は、公平で中立的な財政調整制度によるべきである。こうした前提から、本書の後半(第4章〜第6章)では、現状の地方税地方交付税、地方債のあり方をそれぞれ論じていく。もっとも、後半の議論は主として現状の解説と問題点の指摘が主であり、分権的福祉政府との関連は終章に譲られる。

これまで行われてきた三位一体改革や、その後の税源委譲の議論は、あるべき地方政府の姿を描き、それにふさわしい国と地方の財政のバランスを考えるというよりも(地方側はこうした「幻想」をもっていたかもしれないが)、主に国の側の支出削減のエクスキューズに使われてきたきらいがあるように思われる。その時に決まって言われるのが、地方の「効率化」である。

確かに、地方にも「効率化」が求められる点がないとは言わない。しかし本来、「地方政府のあり方論」と「地方行政の効率化」は、別問題であるはずだ。それを、国の側は(おそらく意図的に)混同したまま議論を展開し、地方側が引きずられるようになってきたのがこれまでの議論であったのではなかろうか。本書はこうした議論に対し、前者の「地方政府のあり方論」をしっかりと論じ、地に足の着いた充実した地方財政論を展開している。議論のバランスもよく、非常に学ぶべき点が多い良書であった。