自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【962冊目】小西砂千夫『地方財政改革の政治経済学』

地方財政改革の政治経済学―相互扶助の精神を生かした制度設計

地方財政改革の政治経済学―相互扶助の精神を生かした制度設計

三位一体改革を総括し、あるべき地方財政制度を考察する。複雑な制度をえいやっと切り捨てるのではなく、複雑なものは複雑なままに考える、大人の財政論。

地方財政制度は、ずいぶんと「細かい」。制度自体の大枠はそれほどフクザツじゃないのだが、ある程度踏み込んで見ていくと、無数の細かい要素のパーツがからみあうように組み立てられ、現状のシステムをかたちづくっていることに気づく。

別にわざと分かりにくくしようとしているわけではない。むしろ、実情に合った妥当な再分配システムをつくりあげるために、やむなくそうなってしまっているのが実際のところであろう。

しかし、「今後のあるべき地方財政制度」を論じる場合、どうしても制度の大枠を捉え、地方分権や財政効率化、格差の縮小、自治権の拡大など、論者みずからのよって立つ立場から、ばっさりと議論を整理したくなる。分権論者や財政再建論者の方々の地方財政論というもの、この手の議論が実に多い。

そういう「勇ましい」議論に比べると、本書は実に地道で地味な内容ばかり。しかしそれは、著者自身が制度の細部までを知り尽くしたうえで、その細部にしっかり向き合い、そうした制度が成り立たざるを得ない現実のリアリティをしっかりと踏まえて議論を展開しているためであるので、むしろ著者の誠実さの表れであると思う。なお、著者は現状の地方財政制度については、問題点も指摘しているものの、おおむね肯定的。特に、地方財政計画からスタートし、大枠を決める国の視点から展開される地方財政制度の解説には非常に説得力がある。

もっとも、本書自体の内容も、とても「細かい」。相手にしている制度がそうなのだからやむを得ないと思うのだが、正直、一介のシロートとしては歯ごたえがありすぎた。もともと、本書に収録されている文章は、雑誌「経済セミナー」「地方財務」「都市問題」などに掲載されたものがベースになっており、いわば専門家向けのレベルである。以前読んだ『基本から学ぶ地方財政』が小西地方財政学の入門編とすれば、本書はもうワンランク上の中級編。その分、財政担当の職員が読めば、私などとはまったく違ったレベルで面白く、ためになる一冊になるだろう。

なお、個人的に読んでいて印象に残ったのは、地方債制度や自治体破たん法制をめぐる論考で「自治体が倒産しないということは、借りた金をなんとしてでも全部返さなければならないということ」という指摘。「自治体はつぶれない」というセリフ自体は、親方日の丸体質の自治体職員への非難として使われることが多いが、こと債務に関して言えば、民間企業であれば倒産してしまえば借金はチャラになる(実際にはもっと複雑だが)のに対して、自治体は倒産できない以上、何年かかっても借りた金は返さなければならない。もっとも、そのため金融機関はリスクがゼロになり、自治体に資金を融通しやすくなっているのだが……。