自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【207冊目】森孝一「宗教からよむ「アメリカ」」

アメリカを「宗教」という切り口から読む本である。形式上の「政教分離」とは裏腹に、アメリカという国が宗教(キリスト教)といかに密接不可分の関係にあるかが、本書を読むとよく分かる。著者はそれを「見えざる国教」と呼び、宗教が多民族国家アメリカの一種の統合原理としての役割を果たしていることを明らかにする。また、モルモン教アーミッシュ人民寺院やブランチ・デビディアンなどについても、その内容だけではなく、アメリカとの関係性や国民意識との関係を常に照合しながら紹介している。さらに、ファンダメンタリズム原理主義と訳されることが多いが、ここでは保守的傾向をもつ宗教思想)がアメリカにおいて無視できない巨大な存在であり、われわれ非キリスト教徒からすると奇異とすら思える宗教的思想や発想が、アメリカでは国策を左右するほどの重みをもっていることへの指摘もなされている。

アメリカが事実上のキリスト教国家であることを知らなかったわけではないが、これほど宗教のもつ役割が大きいことを、私は本書を読んで初めて知った。この本は911以前に書かれたものだが、あの事件を本書に照らして見てみると、なるほど一般のアメリカ人の宗教意識からすると、ああいうナショナリスティックな反応になるのだな、と腑に落ちる。あの事件は、キリスト教のもつ終末論や「神と悪魔の戦い」というテーゼ、異教徒に対する排他的傾向と、気味が悪くなるほど附合してしまっているのである。