自治体職員の読書ノート

自治体で働くソーシャルワーカーが、読んだ本を紹介します。

【2456冊目】出口治明『哲学と宗教全史』

 

哲学と宗教全史

哲学と宗教全史

 

 

だんだん出口治明という人がわからなくなってきた。ライフネット生命を立ち上げたベンチャー起業家であり、それが還暦になってからということで高齢者の星とも目され、さらにワークライフバランス関係の本もあって「そっち系」のビジネスリーダーなのかと思いきや、最近は世界史とか日本史の本が多く歴史家と見まごうばかり。さらに読書家としての側面にも光が当たっている。

多才、というのとは、この人の場合ちょっと違う気がする。むしろ膨大な読書量が根っこにあって、そこで確立したモノの考え方や社会の見方が起業につながり、また働き方にも関係している。世界史や日本史についても、多くの本をベースにしつつ、さまざまな補助線を引いてわかりやすくし、同時に著者の独自性を出したというところがウケているのだろう。手前みそのようだが、出発点はやはり「読書」であって、そこから形成された「思想」なのだ。

本書は世界中の思想・哲学と宗教を紹介する一冊だが、同時に、おそらくは出口治明という一人の人間の思考の基盤をあきらかにする本でもあると思う。しかも、それを単なる思想史にせず、宗教と並列したのがポイントだ。いや、著者の発想としては宗教の解説がまずあって、そこに思想がくっついてきたのかもしれないが、いずれにせよ大事なのは、とりわけ欧米文化圏においては宗教(主にキリスト教)と思想が密接に関係しており、思想は常に宗教という土壌に根を張っているという認識をもつことだ。宗教を抜きにした思想などというものは、本当に最近になってはじめて登場してきたのである。

にもかかわらず、なぜか多くの日本人は、宗教というと妙なアレルギー反応を起こす。特にキリスト教イスラム教などの一神教に弱い(仏教のこともほとんど知らないが)。だが、本当は宗教をしっかり押さえないと、そこから生まれてきた西洋哲学も理解できず、欧米社会のあり方だってわからない。

本書はなかなかのボリュームであり(それでも古代から現代までを一冊に収めきったことを考えれば、かなり「薄く」押さえたほうだろう)、記述もやや起伏に欠けるきらいはあるがわかりやすく、全体像をアベレージでつかむには役に立つ。特にゾロアスター教、ヘレニズム、イスラム思想あたりにしっかり頁を割いているのがポイントで、ここを踏み外すと、実はいろんなことが見えなくなるのだ。一方、近代以降はやや駆け足という印象が残った。ここは2冊組にしてでもじっくり書いたほうが良かったかもしれない。なお老婆心ながら、歴史が苦手という人にとっては、本書はいささかとっつきづらい。せめて背景となる世界史全体のアウトラインを確認してからにするか、世界史年表を横に置いて読んだ方が、迷子にならないで済みそうだ。