自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【2006冊目】中田考・橋爪大三郎『クルアーンを読む』

 

 



クルアーンを読む」ことがなぜ重要か。クルアーンを知ることは、イスラームの根本を知ることである。クルアーンを通して見るイスラームとは、いわば「内側から見た」イスラームだ。西欧社会の価値観で語られる「外から見た」イスラームとはまるで違った姿が、そこに立ち現われてくる。

イスラームの内側から見た世界像は、われわれが慣れ親しんでいる西欧寄り、アメリカ寄りのものとは、まるっきり異なる。そのスコープから世の中を眺めてみると、今起きている様々な紛争、とりわけISのもっている意味合いが一変する。その内容を一言でいえば、テロリズムを正当化するわけではないが、イスラームの論理からすると、ISの行動原理が案外「まとも」なものであることに気付かされるのだ。むしろ(スンニ派の中田氏の視点で語られているということもあるのかもしれないが)シーア派のイランとか、あるいはサウディアラビアの「外国人にばかり働かせて、自国民の平均年収二千万円」とかのほうが、よっぽどおかしな社会に見えてくる。

そうなのだ。いろいろな矛盾を抱えてはいるものの、イスラームは本来、なんとも論理的で合理的な宗教であり、社会なのである。その論理の根っこがクルアーンなのだから、ここをおさえればイスラームの本質が見えてくるのは、考えてみれば当然のことなのだ。

だが、イスラームの独特の内在的論理を、そもそもイスラームについての基礎知識さえ十分ではない日本人にここまで理解させるのは、実は大変なことである。それを実現させたのが、キリスト教や仏教、ヒンディー教などに及ぶ橋爪大三郎の広大無辺な「知の広がり」と、自らもムスリムであってイスラーム研究者でもある中田考の、微に入り細にうがった「知の深さ」のゴールデン・コンビであった。中田氏によってイスラームの知の深淵が惜しげもなく披露されたかと思うと、それが橋爪氏によって、あっという間にユダヤ教キリスト教と比較され、イスラームならではの独自性が浮かび上がってくる。

世界の見方は一つではない。ISひとつとっても、欧米の目線で見るのと、イスラームの目線で見るのでは、その見え方がまるで変わってくる。本書は、そのことを身をもって体験できる一冊だ。イスラームという「世界の見方」のスコープを手に入れたい人にオススメしたい。