【167冊目】宮部みゆき「天狗風」
- 作者: 宮部みゆき
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2001/09/14
- メディア: 文庫
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「霊験お初捕物控」シリーズ第2弾。江戸の町でたてつづけに発生した「神隠し」に立ち向かう、「普通のひとに見えないものが見える」能力をもつ少女お初の活躍を描いている。
宮部みゆきにはほかにも「龍は眠る」「クロスファイア」など超能力をもつ主人公が登場する小説が多いが、主人公以外は特に異能をもたず、主人公は人間離れした能力をもったまま現代世界にぽんと放り込まれ、ひどい孤独を感じながら生きていかざるを得ない。その点、本書は神隠しやら天狗やらが現実のものとして起きる世界であり、お初もずいぶんのびのびと活躍している。そこはやはり現代とは違う、科学やら合理やらがまだ幅をきかせておらず、神や仏、あるいは妖怪やもののけが日常のすぐ近くに息づいている江戸時代の魅力であろう。
ストーリーは緩急自在のジェットコースターのようであり、かなりの厚みがあるにもかかわらずあっというまに読み進めてしまう。特に宮部みゆきはいつも子どもと動物の描写がうまいのだが、本書でも捨吉という子どもや、人間の言葉を話す(といってもお初にしか聞き取れないのだが)猫やらが実に良い役割を演じている。特に猫の「鉄」は重要なキープレイヤーなのだが、ちょっとした所作や口の利き方などになんともいえない本物っぽさがある。全体に、細部の描写や組み立てが半端でなくうまい。職人芸である。
とにかくこういう本は、くだくだしく感想を書くこと自体ナンセンスだと思う。当代随一の職人による、極上のエンターテイメントである。