自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【126冊目】齋藤純一「公共性」

公共性 (思考のフロンティア)

公共性 (思考のフロンティア)

アレントハーバーマスらの「公共」概念を足がかりに、新たな「公共」のあり方を考察した本である。

公共性というテーマはずいぶん抽象的に思えるが、考えてみれば、近年の「官から民へ」「小さな政府」論、あるいはナショナリズム的傾向などは、見方を変えれば「公共」と「非・公共」の分水嶺をどこに見るかの問題にほかならない。

著者は、公共性のキーワードとして「非人称・強制的連帯」という言葉を挙げ、同質的で排他的な「共同体」とは異なる「解放性」「複数性」を公共性の特質として挙げる。複数性とはアレントの政治哲学における同概念に相当し、異なる意見や理論を無理やり同一化し、一色に塗りこめるのではなく、公共の内部に、異なる意見の間の「対話」を確保し、複数の人間による対話的活動によって公共性が立ち上がってくるというスタンスをいう(と思われる)。この「内なる対話性」「内なる他者性」を著者は非常に重視している。それは、多くの共同体にみられるような同一化・抑圧を回避し、公共の外部に何人をも排除しないという意味をもつ。

もっとも、著者は単に、自立した諸個人による理性の結果として公共性を捉えているわけではない。本書の後半部で大きなウェイトが置かれているのが、そうしたいわば公共性の補完原理としての「親密圏」の重要性である。親密圏とは、公共性の内部にあって多数派から無視されがちなマイノリティの人々による同質的なつながりをいう。親密圏は一見、開放性を旨とする公共概念からは相容れないように見えるが、実は、社会的・政治的な立場において多数派に大きく劣るマイノリティにとり、その立場を主張し、あるいは相互に承認を得、ひいては社会内のメンバーシップを確保するための重要な足場となっているという。

立場に賛否はあろうが、全体として非常にクリアな論理と文章で書かれており、アレントハーバーマスらの思想もかなり分かりやすく解きほぐしてくれている。格差社会ナショナリズムとの関係や、市民活動と公共性の(難しい)関係など、なるほどと思えるところの多い本であった。