【355冊目】中岡成文「ハーバーマス」
- 作者: 中岡成文
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2003/07/11
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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ハーバーマスは前からちょっと気になる思想家だった。それで、「公共性の構造転換」をちょっとずつ読み始めているところなのだが、その思想全体のアウトラインをつかんでおきたいと思い、選んだのが本書。前にハンナ・アレントを読んだときにもお世話になったシリーズである。
ハーバーマスの思想は広範にわたるが、本書はその中でも「コミュニケーション行為」に関する理論を中心にまとめられている。対等な個人間の討議・対話こそが、真に合理的で適切な決定を導き出し、ひいては民主主義を実現するというのである。哲学者、思想家というと、孤独で沈思黙考し、自らの知性を恃むところが大きいような印象があるが、ハーバーマスの考え方はそれとは対極にあるといえよう、実際、ハーバーマス自身、他の思想家に対して頻繁に論争することによって自らの思想をブラッシュアップしてきた。そのいくつかについては本書でも詳述されているが、まさに自分自身が主張する「討議倫理学」を地で行く行為である。
この「討議倫理学」は、理性的な個人による対等のコミュニケーションを前提としている。その点で、ハーバーマスは「理性的で自立した個人」という近代西洋思想の正統な後継者である(その点では、いわゆる「市民」概念もこの系譜を引き継いでいる)といえる。ただユニークなのは、ハーバーマスが信頼を置いているのはその「自立した個人」そのものではなく、その間に交わされる「コミュニケーション行為」という相互的行為である、という点である。いずれにせよ、現代においてはあまりにも理想的でナイーブな思想にも思えるが、民主主義を支えるひとつの理念としては分からなくもない。別の本で論及されていた「討議デモクラシー」も、考え方としてはハーバーマス的な「対話への信頼」という理念のひとつの表現形といえるだろう。