【125冊目】井上雄彦「バガボンド」
- 作者: 井上雄彦,吉川英治
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2007/03/23
- メディア: コミック
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「吉原御免状」を読んだらなぜかこれが読みたくなり、久しぶりに読んでうなった。何度読んでも凄みが薄れない。まだ完結していないが、すでに漫画史上に残る傑作となっているのもうなずける。
井上雄彦というと「スラムダンク」のイメージが強く、「なぜ時代物を?」と思いながら第一話を読み始めたのを覚えている。そして、最初から引きずり込まれた。コマの中に空気が流れている。激闘の血しぶき、足音、はりつめた空気、あるいは山奥の葉ずれの音、武蔵の草履が枯葉を踏みしめる音が描画から伝わってくる。信じがたいことである。
物語も緩急自在でありながら、軸足は武蔵という若者の成長譚にきっちりと置かれている(途中、小次郎のほうに視点が移ったが)。単に強さを増すのではなく、剣を通じて人間の深みにまで降りてゆくその過程は、どこか哲学的でもある。宝蔵院胤栄や柳生石舟斉とのやり取りは、さながら禅の公案の世界である。ここまで漫画で描いてしまう作者の力量も並外れているが、こうした内容の漫画が数千万部も売れていることに、どこか救いを感じる。
「バガボンド」には、漫画という表現形式のもつ底知れない力と可能性を感じさせる。この作品と同時代にいられること、週刊誌上で同時体験できることを、幸福に思う。