【109冊目】後藤和子編「文化政策学」
- 作者: 後藤和子
- 出版社/メーカー: 有斐閣
- 発売日: 2001/08
- メディア: 単行本
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最近、文化政策に関する分野が面白く、いろいろ本を読んでいるが、本書はその中でもピカイチの一冊。
そもそも地方行政にとって、文化政策というのはちょっと面白い位置づけにある。まず、他の分野に比べて国の法律による縛りがすくない。もちろん「文化財保護法」や「社会教育法」、「著作権法」などの法律はあるが、いずれも文化活動の一部を対象にするにすぎない。特に文化の創造的側面やマネジメント、政策評価などについては、自治体の裁量でかなりいろいろなことができる環境が整っている。こういう自由度の高い行政分野はめずらしい(その反面、自治体の意識の高低によって地域ごとの文化政策のレベルは大違いになる。そういう意味では怖い分野でもある)。さらに、その成果はそのまま地域の住民活動や地域経済の活性化に直結し、さらにはまちづくり、福祉、教育にも影響を与える。その理由は本書をお読みいただきたいが、とにかく、実は非常に裾野の広いテーマなのである。また、ホールや美術館等のハード面とコンテンツにあたるソフト面のバランスが要求されること、NPOなどの住民団体の活動が大きなウェイトを占め、行政と住民との協調・連携が重要とされること、さらには(本書では触れられていないが)指定管理者制度や市場化テスト等が直接の大きな影響を与えていることなど、現在の行政が直面している諸問題が集中的に現われている分野でもあるといえる。
それほど重要で象徴的な分野であるにもかかわらず、文化行政や文化政策への注目度は、一部の自治体を除き、いままで決して高いとはいえなかった。頻繁な職員の異動、効率性や経済性による制約、縦割りの組織風土など、行政組織自体が文化政策に「向いていない」と思える面もある。しかし、その中でさまざまな取り組みによって成果をあげている自治体も確かに存在するし、しっかりとした意識と方向性をもって、きちんとした政策決定やマネジメントを行えば、どの自治体(あるいは国)でもそれなりの成果をあげることはできるはずである。
本書はひとことでいえば、その「きちんとした政策決定やマネジメント」を行うために必要な文化政策理論、必要とされる環境、行政や住民の意識のあり方など、いわば文化政策の土台の部分をコンパクトにまとめたテキストといえる。指定管理者制度導入以前のものであるが、非常によくまとまっており、問題点の指摘も的確である。文化政策に当面関わりがなくても、自治体職員として知っておくべきこと、意識しておくべきことがぎっしりつまった必読の一冊といえよう。