hachiroetoのものぐさ遊読帖

自治体職員。仕事は福祉系。読書は雑食系。

【532冊目】野田邦弘「イベント創造の時代」

著者は横浜市の職員で、横浜の文化行政を第一線で担ってきた方。本書は、その経験をもとに書かれた文化行政論である。

著者が実際に取り組んだ事例として挙げられている横浜市でのイベントは80年代に実施されたものが中心だが、驚かされるのはその多彩さと野心的なプログラムである。英語字幕のみ(あるいは字幕なし)のフランス映画連続上映、大野一雄の舞踏、野外での前衛劇上演、山下洋輔らを招いてのジャズフェスティバルなどが次々と展開される。圧巻は横浜を舞台とした国際舞台芸術フェスティバル「ヨコハマアートウェーブ'89」。ピナ・バウシュとヴッパタール舞踏団、ラ・フーラ・デルス・バウスなど絢爛たる出演者による舞台を軸にシンポジウム、ワークショップ、アマチュア団体の出演などが組み合わさったその陣容には、一自治体の文化イベントでここまでできるのか、と目を開かされた。もちろん、一朝一夕の成果ではこんなことは到底無理である。こうしたビッグ・イベントの背後にあるのは、著者をはじめとする関係者の地道な努力の積み上げと、そこで築かれたノウハウと人脈、そして何より、こうした活動によって培われたいわゆる市民活動の蓄積なのである。

もちろん、こうしたイベントが可能となるのは政令指定都市の中でも最大級の人口を擁する都市部の自治体だからである、ともいえる。若者が多く住み、多様で新しいものを受け入れる価値観が根付いていることもあるだろう。しかし、内容はそれぞれの自治体で、そこの身の丈に合ったものを考えればよい。大事なことはむしろ、こうした文化行政を粘り強く行うことにより、本書の言葉で言えば「文化の行政化」とともに、「行政の文化化」が起こる、ということなのである。自治体独自の創造的な事業構築、住民との協働、横断的な行政活動、専門家職員による高度なマネジメントなどが、まともに文化事業を行うには欠かせない。その蓄積は、実は文化だけではなく教育や福祉といった他の分野にも及んでくるというのである。言うなれば、文化行政を突破口に行政そのものの変容を狙うことが、文化行政を進める裏の目的なのかもしれない。