【18冊目】下野新聞「鹿沼事件」取材班「狙われた自治体 ごみ行政の闇に消えた命」
- 作者: 下野新聞「鹿沼事件」取材班
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2005/05/21
- メディア: 単行本
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現在、「行政対象暴力」という言葉を知らない行政マンは少ないと思われる。多くの自治体で暴力団やエセ右翼、エセ同和等への対応がマニュアル化され(活用されているかどうかは別問題だが)、組織的対応の重要さが訴えられている。
そのきっかけになったといわれるのが、本書で扱われている鹿沼市役所の職員殺害事件である。 事件の詳細についてはご存知の方も多いと思うので省くが、要するに市の廃棄物処理行政に食い込んで甘い汁を吸っていた業者が、それを許さないひとりの公務員を拉致・殺害したものだ。
しかし、単なるひとりの悪徳業者の問題というだけではない。背後には市役所内をまっぷたつに割る政争、その中で起きた市長の交代等があった。そのためか、その後の捜査や取材においても、同僚の職員が殺されたという状況にもかかわらず、ほとんどの職員が事件の解決より保身を優先して口をつぐみ(もちろん件の悪徳業者の報復をおそれたこともあろうが)形式的な対応に終始したようである。
まったくひどいものであり、まさにこの対応こそがこの事件を引き起こした土壌となっているといえよう。こんな悲惨な状況にあったため、殺害された小佐々さんという職員は組織のバックアップを得られず、孤立無援の中、ひとりまっすぐに筋を通そうとしたのである。
本書を他人事として読める自治体職員は多くないだろう。組織上部と業者の癒着が行政対象暴力の背景にあり、まっとうに職務を遂行する職員個人が狙い打ちにあった場合、それでも職員をかばい、組織的に対応してくれる役所はどれくらいあるだろうか。どれくらいの職員が、その中で正義を貫くことができるだろうか。自分の胸に問うたび、暗澹たる思いにさせられる本であった。