自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【1549冊目】澤俊晴『自治体職員のための文書起案ハンドブック』

自治体職員のための文書起案ハンドブック

自治体職員のための文書起案ハンドブック

文書起案の基本中の基本を、懇切丁寧に解説してくれる一冊。

当然、文書起案のルールは自治体ごとに異っているが、本書はそうした細かい表記上のルール以前の、文書というもの、起案というものの本質にさかのぼって説明しているため、そのあたりは心配無用。むしろこういう基本の部分って、案外仕事の中でキチンと教えてもらう機会が少ない(というか、ちゃんと説明できる先輩職員が少ない)ので、こういう本は貴重である。

さらに、通知や照会、許可や契約など、中身に応じた起案の仕方、起案に際して参照すべき法令や要綱等について、審査基準や処理基準についてなど、起案の「背後」にある法令関係や手続き関係にも言及されている……ということは、本書は単に「文書の書き方」を指南するだけでなく、行政全般のあり方、仕事の進め方そのものに関するハンドブックでもあるということになる。

でも、これって考えてみれば当たり前のことだ。なぜなら、そもそも行政とは、基本的に文書で動くものなのだから。内部の意思決定も、外部への意思表示も、ほとんどすべての行政作用は文書を介して行われる。言い換えれば、行政にとっての文書とは、行政を動かすエンジンそのものなのである。

さすがに全然知らないことはほとんどなかったものの、読んだ中でなるほど、と思ったのは、起案時にチェックするべきポイントを「根拠規範」「組織規範」「制約規範」に類型化しているくだり。この分け方は、よくできている。

ここで根拠規範とは「何らかの行為をするための根拠」であり、普通に言うところの根拠法とか根拠要綱のこと。それに対して組織規範は、その起案に属する行為(規制とか命令とか)を行う権限をその組織がもっているか、ということであり、制約規範は手続き的なシバリを言うらしい。

このあたり、私などは実務上はなんとなく実行していても、規範というカタチで意識的に整理できていなかったように思う。特に制約規範はいわゆる行政手続法とか行政手続条例に絡んでくるところなので、明確に意識しておきたいところ。組織規範についても、本書に言うように、規制行政の場合などは「組織規範はあっても、根拠規範がなければできない」というケースがけっこうあるように思う。

本書は非常にコンパクトではあるが、ハンドブックというだけあって、必要な情報がきちんと「使える形」で収められている一冊となっている。特に起案の際の「理由」の書き方については、パターンごとの記載例まで載っているというサービスぶりだ。

地方分権時代の自治体職員にとってのスタンダードとなりうる一冊。特に新人さんには強くオススメしたい。ただし、本書は「使う本」なので、図書館で借りるのはダメ。ちゃんと購入して、自分の机の周り、すぐ取り出せる場所に備えておくとよい。