自治体職員の読書ノート

自治体で働くソーシャルワーカーが、読んだ本を紹介します。

【2384冊目】太宰治『晩年』

 

晩年 (新潮文庫)

晩年 (新潮文庫)

 

 

太宰治が最初に刊行した小説集。そのタイトルが「晩年」というところが、なんとも人を食っている。さらに、冒頭の「葉」がヴェルレーヌの引用で始まり、太宰自身の最初の一文が「死のうと思っていた」なのだから、まあなんというか、太宰はまさに最初から太宰だったのだ。もっとも、実際に最初に書かれた作品は「葉」の次にある「思い出」。てらいなく自身の子供時代を綴った好短編である。

全体的な印象としては、なかなか入り込めない作品が多かった。とっかかりが乏しいというか、これは読む側の問題もあると思うが、散漫になりがちな意識をぐいぐい惹きつける、たとえば「人間失格」や「斜陽」、あるいは晩年の短編集のような迫力があまりない。読み手の方でかなり配慮しないと読みきれないような印象の作品が多かったように思う。

なかでちょっと面白かったのは、幻想的な変異譚の秀作「魚服記」、主人公の名前が『人間失格』の主人公と同じ大庭葉蔵で、作者自身がちらちら登場してコメントを述べるメタフィクションじみた「道化の華」(自身の心中未遂事件を扱っている)、短いがどこかぞわりと怖い異様な感覚の「玩具」あたりだろうか。著者は「遺書のつもり」で本書を出したというが、ここで「遺書」を存分に書ききれなかった残念が、のちの傑作群の創造につながっているのかもしれない。