【2288冊目】鈴木宏幸・渋川智明『認知症対策の新常識』

 

認知症対策の新常識

認知症対策の新常識

 

 

福祉関係者以外の方にはマニアックな本で申し訳ありません。でも、認知症というテーマは今後、誰にとっても他人事ではなくなるはず。だからこそ、基本的な点だけでも知っておきたいところである。

本書は認知症の基礎知識から予防法、なってしまった場合の周囲の対応策などをコンパクトにまとめた一冊だ。意外だったのは、先進国では認知症の有病率が低下しているという指摘(ちなみに高齢者の総数は増えているので、認知症の患者数自体は増えている)。その理由の一つは、若年期における教育の充実であるという。

なぜ教育が大事なのか。本書によれば、文字の読み書きができることで得られる新聞、雑誌、書籍などからの文字情報や、自分から手紙を送ったり書類に記入したりすることが、認知機能を刺激するからだという。また、都市社会では複雑な交通機関の利用や情報刺激の多さが認知的な負荷を与え、これが認知症予防につながっている可能性もある。

認知症患者は敗者ではない」という指摘も大切だ。認知症予防はあくまで認知症になる確率を減らすことができるだけであって、確実に防げるわけではない。これはどんな病気にも、あるいは人生上のトラブルにもあてはまることだが、どんな予防策も、せいぜい病気にかかったりやトラブルに遭う確率を下げることができるだけなのだ。ましてや自己責任論なんて、全く何の意味もない。

前段の話が長くなってしまったが、実は本書の眼目は、その予防法の一つとして「絵本の読み聞かせ」を挙げていること。ちょっとまぎらわしいのだが、これは高齢者が読み聞かせを「してもらう」のではなく、子どもたちに読み聞かせを「してあげる」という行動が良いらしいのだ。それも一人でやるのではない。何人かで本を選ぶところから始め、練習して、実際に読み聞かせ、その結果をみんなで振り返るのである。

活動としてそれをやっているのが、著者の鈴木氏も所属する東京都健康長寿医療センター研究所の世代間プログラム「りぷりんと」だ。面白いのは、これがただの読み聞かせによる認知機能の刺激だけではなく、仲間づくり、子どもとの交流、絵本にまつわる記憶の掘り起こしと、複合的に作用する認知症対策になっていること。また、地域で子どもと高齢者が交流する機会を設けること自体、地域づくりへの大きな貢献になり、子どもへの効果や保護者への負担軽減といった効果も見込まれるのだ。シンプルだが、実によくできた仕組みである。ウチの役所でもやってみてはどうかしらん。