【2244冊目】ダニエル・E・リーバーマン『人体600万年史』

 

 

 

 

 

 上の画像は文庫版だが、読んだのは単行本のほう。念のため。

さて、本書でもっとも驚いたのは、次のくだり。

 

「今日の人間を苦しめている病のかなりの割合は、進化的ミスマッチだということになる。なぜならそれらの病は私たちの身体の大昔からの生物学的仕組みと同調しない、近代的な生活様式によって発生もしくは悪化させられているからである」(上巻p.263)

 

 

びっくりしたのは、こう書いた後で著者が列挙する病名。にきび、アルツハイマー病、喘息、水虫、一部のがん、虫歯、便秘、うつ病、2型糖尿病、緑内障痛風、痔、高血圧、腰痛、骨粗しょう症メタボリックシンドローム胃潰瘍、エトセトラ、エトセトラ。まあ、感染症以外の病気のほとんどが登場するといっても過言ではない。われわれがこれらの病気に苦しめられているのは、著者のいう「進化的ミスマッチ」によるものであり、「ディスエボリューション」なのである。

ここで「ディスエボリューション」とは、「進化の有害な形態」のこと。進化は、通常、環境に対する適応を生み出す。だが、それは数百万年をかけて徐々に起こるものであり、現代のような急激な変化には対応できない。むしろ、病を引き起こす環境要因が次世代にそのまま伝わることで、世代間の「有害なフィードバックループ」(要するに「悪循環」)が生じることさえあるという。ディスエボリューションの一例だ。

本書は、前半で人類の進化のプロセスをたどり、後半では、進化の結果到達した人間の身体と、環境の変化のミスマッチをひとつひとつ取り上げていく。例えば、虫歯である。当然ながら、虫歯そのものは遺伝しない。だが、「虫歯になりやすい食生活」は、親から子へと引き継がれる。かくして虫歯は親から子へと承継されるのだ。

人間という「生物」にとって、現代の文明社会はきわめて有害で不適応なものであるらしい。椅子に座ること。本を読むこと。靴を履くこと。こんな「当たり前の行為」と思えるようなことさえ、数百万年という生物学的単位でみれば極めて異常な行為なのである。

だからといって、いまさら原始時代に還ることはできないし、望ましいともいえない。実際、文明の進歩は多くの感染症を駆逐し、ミスマッチと言われようが、かつては考えられなかったほどの快適な生活と長い寿命をもたらした。おそらく大事なのは、私たちが「生物」であるということを、時々思い出すこと。別の本のところでも書いたが、時折でよいので「フィジカルな存在」として自分を自覚することなのだ。

ついでに、進化に関する忘れやすいポイントをもうひとつ。進化とは、環境に適応した変異が次世代に引き継がれることの積み重ねである。ということは、子どもを産んだ後の私たちがどうなろうと(子育てが終わった年代になればなおさらだ)、進化論的には知ったことではないのである。したがって、中高年の病気は、今後いかに人類が進化したとしても解消するとは考えにくいのだ。