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自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【2214冊目】モーリス・メーテルリンク『貧者の宝』

 

貧者の宝

貧者の宝

 

 

「隠れた真実が生の支配者なのだ。人々はこのことに気づきもせずに、ただ黙々と生きている奴隷にすぎない」(p.89)

 


『青い鳥』では、妖女ベリリウンヌの帽子についているダイヤモンドを回すと、それまで見えなかった真実の世界が目の前に現れた。だが、実際には目に見えない真実の世界など、なかなか目にすることはできない。だからほとんどの人は、現実の生活こそが唯一の世界だと思い込み、その中で生涯を送る。

だが、メーテルリンクは断言する。それは偽物の生、かりそめの世界にすぎない、と。真実の世界とは、世俗的な富や名誉の中にあるのではなく、もっと魂の奥底のほうにあるのである。そこに至るためには、言葉はいらない(少なくとも、世の中で交わされている表面的な言葉は)。もちろん、お金も不要。必要なのは「愛」であって「美」なのである。メーテルリンクによれば、特に「美」こそは魂にとっての養分なのだ。

繰り返すと、真実の世界とは、実際の世界とは別のところにあり、普段は見ることができない。それこそが、それまでの写実的、自然主義的な小説とは異なる、メーテルリンクの世界観の本領なのだ。本書はそうした世界観のエッセンスを、メーテルリンク自らがエッセイとして語った一冊。なんとも純朴でひたむきだが、そのことがかえって胸を打つ。若い頃に読みたかった、という気もするが、むしろ大人になってから(つまり今になって)読むのが味わい深いというべきだろう。問題はその時、「魂の生活」がすっかり失われているか、まだかろうじてその残影を追うことができるか、ということなのだが・・・・・・。

 

 

青い鳥 (新潮文庫 メ-3-1)

青い鳥 (新潮文庫 メ-3-1)