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自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【2062冊目】木々高太郎『光とその影/決闘』

謎・恐怖・幻想

 

 

ひょんなきっかけで読むことになった本だが、もともとは作家の名前さえ知らなかった。

木々高太郎。戦前の「探偵小説」作家の一人で、あの江戸川乱歩と論争して「探偵小説は芸術である」とぶちあげた。精緻なトリックと論理的な謎解きを志向したという点では、ひところの新本格ブームを思わせる。

とはいえ、「新本格」が人物造形をほぼ度外視したパズル的な作品にすぎなかったのに対して、本書は意外にも登場人物の「キャラ」が立っていて、人間ドラマとしてもなかなか読み応えがある。特に「恋慕」など、風変わりな恋愛小説として今でも通用する内容であり、後半の「探偵小説」部分への接続も鮮やかだ。

本書は前半が中編「光とその影」、後半が短編集という構成になっている。「光とその影」は戦後の作品らしいが、ステイシェンという神父が探偵役で、これがなかなかいい味を出している。いろんな意味で正統派の推理小説だが、否定を積み重ねることで真相に至るというロジックの進め方が独特だ。その例として出されている「ディラックの問題」がちょっと面白いので、少しだけ翻案し、ここにメモっておく。

「3人の人物A、B、Cがいる。5枚のトランプのうち3枚をA、B、Cの背中に貼り付け、残り2枚は隠しておく。トランプの内訳は、黒が3枚、赤が2枚。A、B、Cのいずれも、自分の背中についているトランプは見えないが、他の2人の背中についているトランプは見える。
 まず、探偵役がAに対して「自分の背中についているトランプの色がわかるか」と聞くと「わからない」と答えた。次にBにも同じ質問をするが、やはり「わからない」との回答。最後にCにも尋ねたところ「AとBがよく考えて、完全な推理の上でわからないと言っているのであれば、私には自分の背中についているトランプの色がわかる。それはXだ」と答えた。
 では、Cが答えたトランプの色Xは何か」

 



面白いことにここで本書は「読者はここで本を伏せて、この問題を解いてください」と「読者への挑戦状」めいた一文を入れているのだが、これ、かなり難しくて、ずいぶん考え込んでしまった。こういう「挑戦」もちょっとめずらしい。