自治体職員の読書ノート

自治体で働くソーシャルワーカーが、読んだ本を紹介します。

【2449冊目】デイヴィッド・ゴードン『二流小説家』

 

二流小説家 〔ハヤカワ・ミステリ文庫〕

二流小説家 〔ハヤカワ・ミステリ文庫〕

 

 

ペンネームでチープなミステリ、ポルノまがいのSF、ヴァンパイア小説を書き散らし生計を立てている「二流小説家」ハリーのもとに送られてきた、刑務所からの手紙。それは連続殺人鬼として死刑判決を受けて服役中のダリアンからの、ある条件で自身の半生を告白しようという申し出だった……。

二重三重に仕掛けの施された小説だ。まずこの小説自体が、ハリーがみずからの実体験をもとに書いたという設定になっている。しかもわざわざ「自分は『信頼できない語り手』ではない」と断っているのである。さらにイミシンなのは冒頭だ。この小説は、こんなふうに始まるのだ。

「小説は冒頭の一文が何より肝心だ。唯一の例外と言えるのは、結びの一文だろう。結びの文は、本を閉じても読者のなかで響きつづける。背後で扉が閉じたあと、廊下を進むあいだもこだまが背中を追ってくるように。だがもちろん、そのときには手遅れだ。読者はすでにすべてを読み終えてしまっている」(p.11)

一見、なんてことのない一文だ。実際、最初に読んだ時はさらりと流してしまった。だが、読み終えてどうしても、この冒頭が気になってしまった。その理由を書くには、本書の「結びの一文」がどんなものか紹介しなければならないのだが、それはミステリ紹介のルール違反。ぜひ本書にあたっていただきたい。

もっとも、本書の「仕掛け」が読み切れているかというと、自信がない。ある種のメタ小説だとは思うのだが、その肝心なところが読み切れていないような気がするのだ。頻繁に挿入される、ハリー自身が書いた小説(ヴァンパイア小説「真紅の闇が迫る」とかエロSF「惑星ゾーグ さまよえる愛奴船」とか)についても、単なる著者のお遊びとも思えないのだが、その意図が汲み切れない。

とはいえ、本書は「普通のミステリ」として読むだけで充分楽しめる。かなりグロ風味強めだが、ディーヴァーを思わせる終盤のどんでん返しのラッシュも納得感がある。著者はこの作品がデビュー作とのことだが、なかなかの手練れである。本書以降はあまり話題になっていないのが少し気になるが。