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自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【1933冊目】ヒクソン・グレイシー『心との戦い方』

 

心との戦い方

心との戦い方

 

 

もはや「生ける伝説」の格闘家だろう。グレイシー柔術の達人で、400戦無敗の男、ヒクソン・グレイシーの思考と行動のエッセンスを詰め込んだ一冊である。タイトルどおり、メンタルの鍛え方がいろいろ書かれており、その気があればビジネスや日常生活にも十分に応用できる。どれも具体的な話に引きつけて書かれているので、たいへん説得力がある。

特に印象深かったのは、幼い頃、稽古中にパニックに襲われることもあったというエピソード。11歳か12歳の頃は、ヘッドロックをかけられて逃げ出すことができず、パニック状態に陥って「やめろ、やめろ!」と大声で叫んでしまったらしい。

まあ、ここまでなら「よくある話」である。ヒクソンがスゴイのはここからだ。「どうしたら二度と同じような失敗を繰り返さないですむようになるのか」と考えたヒクソンは、家にあったカーペットに自分をぐるぐる巻きにして10分間放置するよう兄に頼み、身動きできず息が詰まりそうな環境をわざわざ作ったのだという。11歳だか12歳の発想とは思えない。この「恐怖心克服」のトレーニングを、ヒクソンは週に1回、2ヵ月続けたそうだ。

ヒクソンに格闘技の才能があるのは間違いないだろう。ヒクソン自身も本書で、自分はサッカーのペレ、F1のアイルトン・セナ、あるいは宮本武蔵のように(ここで武蔵が出てくるのが面白い)「神様から特別な才能を与えられた人間の一人なのだろう」と書いている。

ヒクソンの「才能」は、単なる力の強さやテクニックだけではない。自然に学び、自然に同化する能力もあれば、相手が次に何をしようとしているかを読みとる能力もある。だがその中でも最大の強みは「メンタル」なのだ。とりわけ、感情をコントロールすることがいかに大切か。その重要性は、ヒクソン自身の目から見た試合の展開を読めばよく分かる。

例えば、高田戦はヒクソンの目からどのように見えていたか。自分に対する自己観察力、相手の力量や思考を読みとる洞察力、そしてそれらをすべて完璧にコントロールする意思の力。戦う前から勝負がついているとは、こういうことか。しかもその時、ヒクソンは背中を痛め、試合のキャンセルまで考えざるを得ない状態だったという。信じがたい話だ。

とにかく本書を読むと、ヒクソン・グレイシーという人物が到達した領域の「広さ」と「深さ」に圧倒される。どんな分野でも、トップクラスに達するような人は同じような領域に至るというが、本書に書かれた内容は、まさにそうしたレベルのものなのだろう。