【1338冊目】スティーヴ・ハミルトン『解錠師』
解錠師〔ハヤカワ・ミステリ1854〕 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
- 作者: スティーヴ・ハミルトン,越前敏弥
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2011/12/08
- メディア: 新書
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完璧なエンタメ。最高のクライム・サスペンス。完徹保証の面白さ。
主人公マイクルの設定がすばらしい。どんな金庫も錠前もたちどころに開けられ「金庫と会話できる」ほどの腕前と、それと同じくらいずば抜けた絵の才能を持ち、10代にして伝説的な金庫破り「ゴースト」の後継者となる。ところがこのマイクル、8歳の時に起きたあるとんでもない事件のせいで、まったく口が利けないのだ。
しかも著者は、この「才能の突出と欠落」を物語のなかに見事に織り込み、すさまじいクライム・サスペンスに仕立てあげた。マイクルの「現在」と「過去」が交互に語られるという構成が途切れることのない緊迫感とリズムを生み、8歳の時の「事件」とは何だったのかという謎が絶えず物語を引っ張り、そしてアメリアというすばらしいヒロインの登場で、ロマンスもたっぷり盛り込まれているという行き届きぶりだ。
中でも本書最大の見せ場は、マイクルが行う「金庫破り」のリアリティあふれる描写だろう。著者は「金庫開けの達人」に取材してこの作品を書いたというが、その金庫破りや錠前開けのシーンたるや、ダイヤルを回すかすかな音、シリンダーが落ちて取っ手が回るカチリという音まで聞こえそうなほどの緊迫感で、こちらが息をするのも忘れるほどだ。
一方、感動したのは、言葉を発することができないマイクルが、「マンガ」を通じてアメリアとつながる場面(アメリアもまた卓越した絵の才能の持ち主なのだ)。なんと二人は、自分の思いやその日の出来事をそれぞれ1ページのマンガに綴り、「交換日記」ふうに交互に続けていくことで、想いを深め、結ばれるのだ。一見ちょっと古風な設定だが、主人公が話せないという要素ゆえに、とても説得力があって心に届く。う〜ん、うまい。
スリルもサスペンスもミステリーもロマンスも盛り込んで疾走する、現代クライム・ノベルの傑作。こういう本がいきなり現れるから、本を読むのはやめられない。