自治体職員の読書ノート

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【1641冊目】ジェフリー・ディーヴァー『ポーカー・レッスン』

ポーカー・レッスン (文春文庫)

ポーカー・レッスン (文春文庫)

原題が「More Twisted」なのは、第一短編集の原題が「Twisted」だから(邦題は「クリスマス・プレゼント」)。その名の通り、強烈なツイスト(ひねり)を加えたディーヴァーの第二短編集だ。

いくらディーヴァーの得意技が「ドンデン返し」だからって、16編続けてやられたらさすがにマンネリになるんじゃないかと思っていたが、いやはや、とんでもない。騙されるものと予想して読み始めても、気付いたらすっかり物語の中に入り込んでしまい、しかもしっかり騙されてしまう。それを長編ならともかく、短篇でやってしまうのだから、このテクニックはものすごい。

どの短篇も、読み終わると、よくできたトリックアートを見せられた気分になる。ほら、よくあるでしょう。ご婦人のはずが老婆の顔になったり、壺のはずが向かい合った人の顔になったりする、アレだ。

ディーヴァーはそれを「文章」で見事にやってのける。善と悪。真実と虚偽。被害者と加害者。有罪と無罪。白と黒がたった一行であざやかに反転し、読んでいたはずの文章がまったく違う意味を帯びてくる。特に鮮烈だったのは「通勤電車」「生まれついての悪人」「動機」「ロカールの原理」「冷めてこそ美味」あたりだろうか。具体的に言うとネタバレになってしまうが……う〜ん、トリックをここまでばらしたくなるミステリーは、アガサ・クリスティ以来かもしれない。

一方、これまでのディーヴァー作品とちょっと毛色が違うのが、邦題の表題作になっている「ポーカー・レッスン」。これは血なまぐさい殺人や傷害ではなく、ギャンブルものだ。

ポーカーを扱っているあたりは映画『シンシナティ・キッド』あたりが思い浮かぶが、読み終わってむしろ似ていると感じたのは『カイジ』。ギャンブルを単なる運否天賦ではなく「勝つ仕組み」に寄せたあたりが、特に。もっとも「仕組み」の巧妙さは、さすがにギャンブルマンガのプロだけあって、ディーヴァーより『カイジ』の福本伸行のほうが徹底しているような気がする。

そして、本書には収録作品のひとつ「恐怖」を題材にしたディーヴァー自身による「小説作法」がボーナストラックとしてついている。文字通り「恐怖」をどのように作品に織り込むか、というテクニックを開示したもので、なかなか面白い。ただ個人的には、ドンデン返しの発想の仕方や、それを小説化するプロセスのほうを読みたかったかな。創作の秘密の一端を明かしてもらったのは嬉しいけど、なんだかちょっと煙に巻かれた気分だった。

クリスマス・プレゼント (文春文庫) 賭博黙示録カイジ 1 シンシナティ・キッド [DVD]