自治体職員の読書ノート

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【895冊目】ジェフリー・ディーヴァー『12番目のカード』

12番目のカード〈上〉 (文春文庫)

12番目のカード〈上〉 (文春文庫)

12番目のカード〈下〉 (文春文庫)

12番目のカード〈下〉 (文春文庫)

リンカーン・ライムシリーズ第6作。前作の『魔術師』や本書の後の『ウォッチメイカー』に比べると、犯人のキャラ、事件の内容ともに、かなりおとなしいように感じる。ディーヴァーお得意のどんでん返しも、それほど二重三重に「畳みかける」ものではない。

しかし、その分、小説としての「厚み」が増している。現在進行中の事件を追う筋書きの裏側に、140年前の解放奴隷チャールズ・シングルトンの「事件」があり、アメリカの歴史の重層性が地層のように横たわっている。さらに、殺し屋に命を狙われている少女ジェニーヴァの造形が良い。最初は鼻っ柱の強いだけの少女だと思っていたら、だんだん他の要素が染み出すように出てきて(ネタバレになるのであまり細かくは書けないが)、最後には非常に奥行きのあって魅力的な人物に仕上がっている。他にも、ちょっとした脇役の存在感もきちんと立っており、全体として非常に丁寧につくられたエンターテインメントという印象。

あと、本書自体とはあまり関係ないのだが、本書の前に読んだ外山滋比古の『自分の頭で考える』との関連で、ふっと頭を横切ったことがある。外山氏は同書のまえがきで、知識があればあるほど思考力が落ちる、つまり「知識量と思考力は相反する」という仮説を立てていた。しかし、このシリーズに登場するリンカーン・ライムは、犯罪にかかわる「微細証拠物件」に関する膨大な知識を持つが、それをつなぎ合わせて犯罪の実像を描き出す思考力もずば抜けている。まあ、本書はフィクションであるとしても、一般的に考えて、雑多に散らばる「知識」のパーツをその時々の状況に合わせてつなぎあわせ、その隠れた関連性を見い出し、推理のロジックを組み立てるのも、きわめて高いレベルの「思考力」であると思うのである。知識と思考力は、外山氏のいうような「相反」ではなく、むしろ「相補」的関係であると考えた方がよいのではなかろうか。