自治体職員の読書ノート

自治体で働くソーシャルワーカーが、読んだ本を紹介します。

【485冊目】ジェフリー・ディーヴァー「魔術師」

魔術師(イリュージョニスト)〈上〉 (文春文庫)

魔術師(イリュージョニスト)〈上〉 (文春文庫)

魔術師(イリュージョニスト)〈下〉 (文春文庫)

魔術師(イリュージョニスト)〈下〉 (文春文庫)

またも小説。しかもまたディーヴァー。だって面白いんだもん。

ということで、まえの「ウォッチメイカー」からリンカーン・ライムシリーズで一作戻ったこの「魔術師」、今度の犯人は手品師、いややはり「魔術師」というべきであろう。ちなみに原題は「Vanished man」。「消された男」ということになろうか。この原題自体も二重・三重の意味が込められていてなかなか深いのだが、やはり邦題は「魔術師」で正解だろう。「バニッシュト・マン」とかされないでよかった。

「微細証拠物件」をめぐる推理の見事さ、短い時間に連続する犯行、悪魔的な知性の犯人、読者の度肝を抜くどんでん返しと、本書はディーヴァー作品に共通する特徴を、どれもきわめて高いレベルで保っている。完成度でいったらいままで読んだ中でベストかもしれない。特に、「魔術師」という犯人像の設定が見事。瞬時に変装することができ、ピッキングなら数秒、しかも物理的・心理的な「誤導」の達人で、いわばこれまでのディーヴァー作品の犯人像の究極形。「デイヴィッド・カッパーフィールドとハンニバル・レクターを合わせたような犯人」という説明もうなずける。特に、刑務所からの脱走シーンは「羊たちの沈黙」を髣髴とさせるものがあった。

また、ライム側に加わった若手の女性マジシャン、カーラも良い味を出している。犯人の奇術的なテクニックや発想を的確に暴く一方、自分自身は修行中のマジシャンで、将来の希望と不安に満ちており、さらに母親は痴呆状態で入院中。その人柄や希望と悲哀、母への思いが、血なまぐさくジェットコースターのようなこの作品に、ささやかな彩りを添えている。