自治体職員の読書ノート

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【728〜729冊目】米原万里『不実な美女か誠実な醜女か』『他諺の空似』

不実な美女か貞淑な醜女(ブス)か (新潮文庫)

不実な美女か貞淑な醜女(ブス)か (新潮文庫)

他諺の空似―ことわざ人類学 (光文社文庫)

他諺の空似―ことわざ人類学 (光文社文庫)

『不実な美女…』は著者のデビュー・エッセイ。ロシア語同時通訳者の経験をもとに、ユーモラスで軽やかな文章の中に、通訳という「現場」の難しさを縦横に織り込み、それが一級のコミュニケーション論にまで昇華している。名エッセイストの誕生を高らかに告げる、読んで損のないエッセイ集である。特にロシア語通訳という関係上、ロシア人に対する観察がものすごく鋭い。その観察眼はひるがえって日本人にも向けられ、民族の違いや言葉の違いというものすごく深くて大事な問題を、笑いとペーソスのなかに感じさせてくれる。

それに対して『他諺の空似』はどちらかというと晩年(といっても50代)の著作。こちらは各国の諺を比較しつつ国際政治論を織り交ぜていくというもので、『不実な美女…』が「笑い」中心のエッセイなら、こちらは「怒り」のエッセイである。ちょうど小泉首相が登場し、アメリカでは911からイラク戦争へと突き進んだ「ブッシュのアメリカ」全開の頃に書かれたもので、イラク戦争のむちゃくちゃさ、対米追従べったりの小泉外交の体たらく、さらには拉致問題やロシアのチェチェン問題まで、ことわざより国際政治ネタがメインといっても過言ではない。もっとも、挙げられている諺自体もなかなか面白いものが多く、それだけ拾っていっても文化比較のエッセンスが感じられる。また、各章冒頭の下ネタ全開の小咄が、また傑作。