自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【2836冊目】小紫雅史『10年で激変する!「公務員の未来」予想図』

 

この手の本を読むのは本当に久しぶりでした。この「読書ノート」を始めた頃に集中的に読んでいたのですが、あまりにも内容が薄く、また似たような本が多く、少々ヘキエキして遠ざかっていたので。でも、久々に手にとってみると、それなりに新鮮で楽しめました。

 

さて、本書は「10年後の自治体の姿を予想する」という触れ込みですが、内容はAIから少子高齢化、地方創生など盛りだくさんです。その中で全体を貫くコンセプトは、おそらく「自治3.0」ではないかと思います。

 

著者によれば、「自治1.0」が旧来の自治体の姿だとすれば、そこから脱却して「市民はお客様」と考え、民間の手法や行財政改革に取り組むのが「自治2.0」。これに対して市民を巻き込み、一緒にまちづくりに取り組むのが「自治3.0」ということのようです。したがって、そのためには職員は地域に出て、ネットワークを作り、また公務員人材の流動性を高めるべき、ということになります。

 

もっとも、このあたりの議論は、いわゆる「協働」という言葉が出てきた頃からずっと続いているもので、必ずしも著者が言うように「1.0→2.0→3.0」と進むものではないように思います。むしろ、住民は自治体の顧客なのか、それとも担い手なのかという問いは、「地方自治体とは何なのか」「そもそも政府とは何なのか」という根本問題に関わるものであって、簡単に答えが出るようなものではないと考えます。少なくとも、現在のような福祉国家の成立に至る歴史や、共同体における「結」や「講」などの互助的な仕組みから考察する必要があると思うのですが、そのあたりの理論的な整理は、本書ではほとんどなされていません。

 

とはいえ、生駒市の実践をベースにした著者の主張はおおむねうなずけるものです。理論的なバックボーンはともかく、現実問題として、地域との協働、共創がこれからの自治体運営には欠かせないのは、現場の職員としての実感から申し上げても、間違いないと思われます。

 

著者のことは本書で初めて知りましたが、大胆な改革に取り組む一方、たとえば図書館については直営を貫いていることからも、しっかりとした理念とバランス感覚をお持ちであることが伝わってきます。「まちかどバル」や「プラレールひろば」など、政策もおもしろいものが多いですね。ふるさと納税」の返礼品競争に苦言を呈しているのも素晴らしく、かなりの「見識」の持ち主であるとお見受けします。本書ではAIの部分や国際化のくだりなど、お仕着せめいた「どこかで聞いたような話」が多かったのが少々残念でしたが、次はぜひ著者自身の言葉で自治体論や職員論をたっぷり読んでみたいものです。

 

最後までお読みいただき、ありがとうございました!